星照らす夜に



「これは…まずいな。いや、曹丕ならば察していよう。だが、奴の部隊だけで敵の策を止められるか…?」


そう、それが問題だ。
工作をどう阻止するか…、敵中突破以外に確実な方法があるだろうか。
三成は険しい顔をし、ぶつぶつと呟いていたが、ふと思い立ったように悠生を見た。
その目は悠生の手、指先を見つめる。
弓を扱うにしては少々頼りない子供に、三成は些か大胆な指示を下した。


「悠生、あれに向かって矢を放て」

「矢を?で、でも…っ…」

「皆、火矢の準備をせよ!あの灯火目掛けて火矢を放ち、敵の工作部隊を焼き尽くすのだ!」


無謀だ、と皆は同じことを思ったことだろう。
火計を仕掛けるにしても、川を挟んだこの距離で敵陣を狙うなど…、無茶な注文ではなかろうか。
しかも暗闇のせいで視界も悪い、さらにはほとんど無風状態なのだ、どう考えても目標に矢が届くはずがない。
しかし、三成の命に逆らうことは出来ず、兵達は火を起こし、弓を準備し始めた。

とりあえず悠生も弓と矢を取り出すが、不安を感じずにはいられなかった。
本気で、出来ると思っているのだろうか。
悠生に三成の突発的な策を成功させる自信があるはずもなく、狼狽えるばかりだ。
だが、他に方法が見当たらないのだから。
少しでも可能性があるならば、試してみるしかないだろう。


「悠生、貴様は火矢ではなく、あの幻影の弓を持て。出来るのだろう?」

「出来ますけど…あれは幻で、役に立てるようなものじゃ…」

「フン、自分のことさえ分かっていないようだな。貴様は時と場合に応じて弓を使い分けていたのではないか?幻影の弓から放つ矢は殺傷能力こそ弱いが、突風を巻き起こす。その風に火矢を乗せ、一気に敵陣へと炎の雨を降らせる」


悠生は大きく目を見開かせた。
三成が成功を確信したように、自信を持って口にするものだから、驚いてしまったのだ。
これから行われようとしている三成の策は、悠生の戦い方やその能力を知り尽くしていなければ、考え付くはずもないものだった。
悠生の指先から生み出される、光の粒子の集まりで出来た幻の弓が、強い風を起こすことを。
まだ出会ってから日も浅いはずだし、一緒に戦場に立ったのも数えるほどだ。
それなのにどうして、三成は悠生の戦い方を熟知しているのだろうか。


 

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