星照らす夜に



三成は悠生の両肩に手を置くと、その綺麗な顔を近付け、瞬きもせずに見つめてくる。
別に怒っているのではないのだ、表には出さないけれど本当は優しい人だと、悠生はよく知っていたはずだ。
悠生の不安や心配事を取り除くためにはまず詳しく訳を聞かねばならないと思い、三成は尋ねているのだろう。

曹丕軍と夏侯惇軍の陣の境に、大きな川が流れているのだが、三成の言う通り、星明かりだけでは向こう岸が見えないのだ。
勿論、飛び越えられる距離では無く、この暗がりの中で泳いで渡るにも危険である。
だからこそ川からの進入は有り得ない、そう踏んだ曹丕軍は、川岸にはほとんど兵を配置していなかった。

ホウ統は、そのような小さな穴に付け込んだのだ。
この状況で、まさか橋を架けられて敵襲が流れ込んでくるなんて思いもしないだろう。
敵の付け入る隙を与えぬよう素早く手際良く、バラバラだった木材を組立て、連携を成して橋を形作る。
三国時代の技術と兵の数、そしてホウ統の神がかった軍略…それらが可能とした工作である。

止めなければならない、だが、術が無い。
聡明な三成に相談すれば道は開けるかもしれないが…、彼らが辿ることとなる運命や未来の全てを見通している事実を、知られたくはなかった。


「頑なだな。言いたくないなら言わずとも良い。貴様の護衛に残していた許チョに本陣の守備を任せる。俺が見回りに付き合ってやろう」

「えっ!?あの…三成さまが来てくださるのは嬉しいです。でも、許チョどのに本陣を…?」

「許チョでは不安か?案ずるな、見回りを終えたら貴様を連れすぐに本陣へ戻る」


そのまま許チョを悠生の護衛として見回りに同行させるなら分かるが、まさか三成自ら付き添ってくれるとは。
驚きを隠さずにいた悠生だが、三成がさっさと幕舎を出ていってしまうので、慌てて後を追った。



幕舎を出てみれば、風に乗って戦の音が耳に飛び込んでくる。
それと、鼻につく生々しい匂い。
慣れたくはなかったが…覚えてしまったものだ。

本陣を出て川沿いに進み、歩みを早めた悠生と三成、そして僅かな護衛兵達。
三成の言う通り、川岸に立っても向こう側が見えるはずがなく、途方もない真っ暗な闇が続くだけだった。
それでも悠生は馬を歩かせる。
ゲームで何度もプレイした戦場を、地図を思い出し、何か少しでも敵方の動きを見つけようと、必死に目を凝らした。

ホウ統達はまず、橋を組み立てるための木材を川岸まで運ばなければならない。
そして、この暗闇の中で作業を行うのだ。
出来ないことはないと思うが…、一刻も早く橋を完成させ、敵本陣へ乗り込みたいと思うなら、周囲に松明を立てるはずだ。

ぼんやりと、微かな炎のゆらめきが見えた。
此処に来るまでぽつぽつと灯りが見えていたのだが、とある一点だけは、輝きが強かった。
灯りを必要とする何かが行われている…、敵が急いで策を仕掛けようと準備をしていることに、三成が気付かないはずがない。


 

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