星照らす夜に



遠呂智との抗戦で既に死亡したとされている曹操だが、生前からその覇王に心酔していた夏侯惇は、今も盲目的に曹操の影だけを追い続けていた。
それゆえ、夏侯惇を曹丕率いる魏軍に降らせることは容易ではないだろう。
曹操と曹丕はよく似ている。
姿形だけではない、戦い方も、人望も…、そして曹丕は、曹操の血を受け継ぐ、覇道を極めることが出来る唯一の存在なのだ。
だからこそ夏侯惇は、曹丕の中に曹操の影を垣間見てしまうから、曹丕に冷たく当たってしまうのかもしれない。

曹丕軍は南へと進軍し、孫尚香や稲姫は西の砦に布陣し、応戦している。
此度の戦だが、最近、成都城で怪我を負ったばかりの悠生は、三成に本陣待機を命じられていたはずだった。
しかし、ゲームをプレイして戦の全容を知っている悠生には、気になることがあった。


(誰かが敵中突破しなくちゃ、敵の工作は阻止出来ないんだよ…、プレイヤーだったらやり直しも出来るけど…)


まだ確実な情報として伝わってこないが、現在の夏侯惇軍には、劉備に仕え、その命を落とした軍師・ホウ統が加わっているはずなのだ。
諸葛亮と並ぶ名軍師で、鳳雛と称された。
そのホウ統の策が成されれば、曹丕や尚香には手が終えず、両軍が壊滅状態に陥っても不思議ではない。

ならば、誰かが阻止すれば良い。
悠生がやらずとも、鋭い眼差しで戦場を見通す曹丕なら策に気が付き、すぐさま指示を出すだろう。
だが、なるべくなら犠牲を出したくない。
物語の展開を知っているとはいえ、悠生は自分だけの力でホウ統の思惑を打ち破れるとは思えなかった。
死地に飛び込み、工作兵長だけを追い掛け仕留める…そんな無謀なことは出来ない。

だが、何も出来ないことも無いはずだ。
悠生は意を決し、弓を握りしめた。


「三成さま、あの…見回りに行ってきても良いですか?皆が頑張っているのに、僕だけ本陣でじっとしているのは…」

「はっ、貴様が一人前に見回りだと?俺は本陣の守備も重要な役目だと思うがな。…何か、気になることでもあるのか?」

「う…、」


三成に本陣を出る許可を貰おうとしたのだが、彼は悠生の言葉に違和感を持ったのか、鋭い目つきで上から見下ろしてくる。
あまり見つめられては、緊張して背に冷や汗ばかりかいてしまう。
なんと言い訳しようか考えるも、もとより三成に隠し事など、出来るはずがなかったのだ。


「……、大きな川が、あるから…、」

「川?昼間ならともかく、この暗闇の中、向こう岸の様子を確認出来るとも思えぬが…いや、それは俺の思い込みに過ぎないな。悠生、何を気にしている。俺には言えないことなのか?」


 

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