揺れ動く想い



「ち、ちっ、違います…!趙雲どのは僕の憧れの人なんです、ひ、ヒーローが恋するのはヒロインだって決まってるんですから!」

「ひ…ろ…?いったい何を言っているのだ貴様は」

「だ、だって…有り得ない…」

「何故有り得ないと言い切れる?貴様は勝手な理由で趙雲の想いを否定するつもりか」


三成は自信を持って断言するが、いくらなんでも、信じられるはずがなかった。
趙雲は手の届かないような人物で、悠生の永遠の英雄なのだ。
そんな男が、どうしてこのようにちっぽけな子供を愛するだろうか。
理想とした英雄像が無惨にも崩れていくようで、悠生には到底受け入れることが出来なかった。

頬が燃えるように熱くなって、羞恥に耐えられず、悠生は両手で頬を押さえ、熱を冷まそうとする。
三成の視線から逃れようと俯くが、忘れようとつとめても、趙雲の姿が頭に張り付いて離れない。
いつからだ?彼の中で、自分が特別になったのは。
…趙雲への想いが、ただの憧れではなくなったのは。
あの目が、恋情を含んでいたなんて…ただ一緒に居られることが嬉しかった悠生が、予想するはずもなかったのだ。


「俺にはあの男の行動が、言葉が…偽りだとは思えなかった。貴様を抱く腕が、瞳が、全てを物語っていたのだが…」

「阿斗よりも好きになれる人なんて居ません!趙雲どのだって、妻になるべき人が居るのに…」

「……。すまんな、無粋な真似をした。困らせるつもりはなかったのだ。だが、少しぐらいは趙雲の想いに目を向けてやれ。憧れの男に愛されるなど、幸せなことではないか?」


三成に何を言われようと、今の悠生は湧き上がる羞恥心に耐えるのが精一杯だった。
だが、どきどきと響くこの胸の高鳴りは、趙雲を想うゆえのことであろうか?


(趙雲どのは、僕のことが好きなの…?僕は、趙雲どののこと、好きだけど…、それって…意味が違うんじゃないのかな?)


これでは、戦どころではないではないか。
全ては三成のせいだと、悠生は身勝手にも三成に責任を押し付ける。
ここぞと言うときに、趙雲のことばかり考えるようになったら…いったいどうしてくれるのだ。


「ああ、初めに伝えるのを忘れていたが…趙雲は、"迎えに行く、待っていてくれ"と言っていた」

「っ……、」

「流石に幸村には真似出来んだろうな。人前でよくも、見せつけてくれる…見ている此方が恥ずかしくなる」


遠呂智を倒して、世に一時的な平和が舞い戻ったとき、趙雲は改めて想いを告げてくれるのだろうか。
胸に秘めた、熱い熱い気持ちを…、
だが、そのときが来たら、自分は、何と答えれば良いのだろうか?
趙雲のことは好きだ、きっと、その好きという想いはもっともっと膨れ上がっていくのだろう。
いつしか、取り返しのつかないぐらいに大きくなってしまったら。


(そんなのいやだ…僕の理想の趙雲どのじゃなくなっちゃうから…)


心が、憧れの英雄を汚したくないと悲鳴をあげる。
どうしても自分は、趙雲という存在を神聖なものとしておきたいようなのだ。
そして次に、阿斗のことを思った。
阿斗への好きと、趙雲へ抱き始めた好きは…まるきり違うものだと、今となっては悠生にもよく分かる。
だが絶対に、阿斗にだけは知られたくない。
阿斗以外の誰かを…特別にはしたくなかった。
こんな自分と友達になってくれた阿斗への、裏切りになってしまうような気がしたから。

ずっと、このままでいさせてほしいのだ。
一緒に、同じ国に暮らすことが出来たなら…それだけで本当に、幸せだったのに。



END

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