揺れ動く想い



「俺と曹丕の仲など貴様が案ずることではない。まず、貴様は自分のことを気にするべきではないか?」

「自分のことを…?」

「長坂の英雄…、趙雲と言ったか?よもやあの男の気持ちを無視する訳でもあるまい」


趙雲、その名を耳にした途端に、頬がかっと熱くなった。
おかしなことだ、趙雲のことを考えただけで何故だかじっとしていられない心地になり、無性に落ち着かなくなる。
趙雲は憧れの存在で、大好きな無双武将、ただそれだけなのに…何故こうなるのか、よく分からないから気持ち悪い。
だからあまり考えないようにしていたのだけど、三成は話題を変えてくれそうにない。


「趙雲どのの気持ちって、どういうことですか?趙雲どのは、僕が阿斗の友達だから、一緒に守ってくれていて…」

「趙雲は哀れだな。幸村と同じぐらいに分かり易い男だと言うのに、貴様がこうも鈍感では趙雲が報われぬぞ」

「僕は趙雲どののことが好きですし、誰よりも尊敬しています。だから、趙雲どのに目をかけてもらえることは嬉しいです。……こういうことじゃありませんか?」


恐る恐る三成を見上げたら、彼は呆れたように盛大な溜め息を漏らすが、その理由が分からない。
悠生は本気で理解していなかったのだった。
引きこもり続け、他人との接触も少なければコミュニケーション能力も無い、だからこそ、初めての友達・阿斗に全てを捧げる覚悟も出来た。
その気持ちは友情と愛情であり、互いの信頼関係で成り立っているものだ。
しかし、趙雲は違うのだろうか?
趙雲から与えられるものは、友情ではなくても、父が子を想うような大きな愛情ではなかったのか。


「本当に、何も思い当たることは無いのか…?いや、稀代の英雄も、色恋に関してはまるで素人だということか」

「いろ…こい…え、ちょ、待ってください!何を言っているんですか!?意味がよく…」

「本当に分からないか?現に貴様とて、体を張って趙雲を救ったではないか。命を省みず、無我夢中で。尊敬しているから…その程度の気持ちで、そこまで出来るものか」


悠生はぶんぶんと首を横に振るが、一度その意味合いに気付いてしまえば、もう取り消すことも出来なくなった。
今日の三成は変だ、まるで、趙雲と悠生の関係を恋人か何かのように言うのだ。

だが、思い当たることが無いかと問われても、何も無いと断言することは出来なかった。
あの優しげな瞳や、強く抱き締めてくれる腕、たった一度触れた唇の熱さだって…、忘れたことはない。
幸村の槍から趙雲を庇ったとき、ただ…彼を死なせたくない、それだけを考えていた。
悠生の全ては、ずっと阿斗だけだったのに、趙雲のために自分が死んだって構わないと思えたのだ。


 

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