揺れ動く想い



「ありがとうございます…三成さま…それに、ごめんなさい。沢山、ご迷惑を…」

「気にするな。今回の件で、落涙がどれほど重要視されているか分かったからな。十分な収穫だ」

「……、」


石田三成は、心から遠呂智に従っているのではないのだ。
彼の主は秀吉だけなのだ、主従の絆を壊すことは誰にも出来ない。

悠生の知る物語では、現在、魏軍の総大将である曹丕…、三成とは互いに反発し合う仲だが、彼らはいつしか志を同じくし、遠呂智から離反する。
そこに付け加えられた存在、落涙。
三成は肝心なことを言わないが、悠生を囮に落涙を捕え、自軍に引き込み保護するつもりなのではないか。
遠呂智には決して触れさせないように。
そうだったら…良いのだけれど。


「病み上がりの貴様を連れ行くのは不服だが…、妲己の命なのでな。明日には夷陵へ向かう」

「夷陵、ですか?」

「夏侯惇、夏侯淵を捕らえる。奴らほどの戦力を野放しにはしておけぬのだ」


夷陵の戦い…、そして、夏侯惇。
悠生の脳内では、目まぐるしい早さで必要な情報が取り出される。
盲目的なほど曹操の影だけを追い続ける夏侯惇に、曹丕の器を認めさせる戦だ。
夏侯惇も夏候淵も一筋縄ではいかない猛将だ、今回の戦も激しいものとなるだろう。


「案ずるな、悠生は俺と本陣待機だ。妲己も渋々承諾した。だが…曹丕には、あまり近付かない方が良いかもしれぬ」

「ど、どうしてですか?」

「曹丕は使えない者には容赦が無い。更に、此度の相手、夏侯惇は曹操の腹心だ。父を越えねばならない…曹丕の背負うものは大きすぎる。つまり、今の曹丕は過敏だ。俺でなければ押さえられぬだろう」


三成はさらりと発言するが、思わぬうちに二人の仲の良さを知ることとなった。
と言うより、三成の方が曹丕のことをより強く思っているのだろうか。
ねねが言うような生きにくい子…、三成は勿論だが、間違いなく曹丕も当てはまろう。
決定的に違うのは、三成は跡継ぎではなく、周囲には己を理解してくれる人々が居たことだ。
嫡男として育てられた曹丕は、いつでも完璧でいなければならなかった。
誰かに弱みを見せることも出来ない、そうでなければ、覇道を継ぐことを認められないのだ。


「曹丕さまは、可哀想…、一生懸命頑張っているのに…分かってもらえないなんて…」

「フン、曹丕が可哀想だとは、お笑い草だな。誰もが知らぬふりをしている訳では無かろう。曹丕の覇道を見たいと後に続く者達が居る限り、彼奴は折れぬよ」

「そう、ですか。それなら…良かったです。三成さまと曹丕さまは、仲が良いんですね。昔からの友達みたいに…」


何の気なしに口にした友達という単語だったが、三成は何故か嫌がっているようで、同じように低い声で反芻する。
気が合うはずもなかった曹丕と友達に…、まだ、そこまで話は進んでいないようだ。


 

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