揺れ動く想い



淡い色をした、桃の花が散っていく。
頬に花びらが触れ、くすぐったさに意識を覚醒させた悠生は、肩に走る燃えるような痛みにうっと呻いた。
思わずかきむしりたくなるが、痛いのは生きている証拠…そこで、悠生は幸村の槍に貫かれた自分が奇跡的に生き延びたことに気付く。
生理的な涙が滲む瞳を開けば、心配そうに此方を見る、三成が居た。


「う…、三成さま…?」

「貴様は、救いようのないクズだな」


第一声が侮蔑の言葉で、悠生は傷つくより前に驚きを露わにする。
いくら台詞が冷たいものでも、三成の表情が、ほっとしているように見えたからだ。


「誰が見ても貴様は死ぬはずだった。致命傷を負い、出血し、あろうことか光となりかけていたのだよ!…だが、こうして生きている。意味が分かるか?」

「ひかり…」

「ああ、貴様は特殊な存在だそうだ。死が迫ると体を透過させるのだと。遠呂智が、死の淵にあった貴様を救ったのだ。治癒を施し、弱々しく消えかかっていた命を長らえさせた」


まさか、と疑いたくなるが、三成が嘘を付くはずがない。
消えてしまいそうだったのか、自分は。
光の粒となって弾けたら、いったい何処に帰るのだろう。
バグの行く先は…暗くて冷たい闇の中であろうか。

まず、生きていることに感謝せねばならない。
だが…遠呂智が直々に手を下したというのは奇妙な話だ。
悠生の勝手な行動を怒った妲己に、罰を与えられても不思議ではなかったのに。
落涙を捕らえるために必要だからと言え、わざわざ己の手を煩わすようなことをするだろうか、あの遠呂智が。

三成は悠生の肩に巻かれた白い包帯を丁寧に解いていく。
悠生はぎょっとし、我が目を疑った。
そこには、深く槍が刺さったことを示す傷跡と、傷口を囲うようにして、今にも動き出しそうなほどリアルな、蛇の入れ墨が彫られていたのだ。
そっと入れ墨に触れてみれば、表面に描かれているのではなく、きちんと肌に刻み込まれていることが分かる。


「それは、遠呂智が残したのだ。入れ墨は二度と消えぬ。それは生涯、貴様を戒めるだろうな」

「でも、ずっと遠呂智から離れられなくても…今は、生きていることが、嬉しいです」

「女であれば命を絶っても不思議ではない惨状なのだぞ?…だが、俺も悠生に死なれては後味が悪いからな。遠呂智には感謝するとしよう」


三成は再び包帯を巻き直してくれた。
彼の話によると、成都で倒れた悠生はその後、長い間、眠っていたらしい。
しかも、悠生が生死の境をさ迷っている間、嫌々ながらも遠呂智に従っていたはずの孫策が離反したらしいのだ。
妲己に指示され、三成は曹丕軍と孫策を追ったが、すんでのところで逃げられてしまったという(実際には、逃がしたのだが)。
知らぬ間に物語が進んでいて、全く関わることの出来なかった悠生は、ずっしりと重い気分になった。

それとは別に、この部屋には三成以外近付くことが許されず、黄皓は憤り、ねねや許チョは暴動を起こしそうだった、とこれまでの状況を説明しながら愚痴を言う三成は、心身共に疲れた様子だった。


 

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