人間性の限界



「貴様に話す必要など無かろう。曹丕、俺が此処に来て一刻は過ぎたはずだが。用が無いなら何故呼び出した?」

「暇だったのでな。愚痴でも聞いてやる。先日の礼だ」


先日の礼…、それこそ、曹丕が三成を招いた理由だった。
離反した孫策を追い、妲己に命じられ、三成と曹丕は夏口へ向かった。
奥へ奥へと追いつめ、一度は孫策を捕らえるも、曹丕は何を思ったか…彼らを見逃したのだ。
与えられるはずだった功績や恩賞を自ら手放すなど、酔狂な男である。


(その男を助けた俺も、相当酔狂な男だろうな…)


密かに孫策を逃がした事実が妲己に知られてしまい、尋問を受けていた曹丕を、機転で救ったのが三成だった。
何故そんなことをしたかと問われても、上手く答えられない。
いけ好かない曹丕よりも、女王ぶった妲己の方が気に入らなかったから…、それだけだ。


「愚痴か。貴様の横暴な態度に対する不満しか思い浮かばんな」

「ふ…、口だけは達者なのだな」

「何とでも言え。用が無いなら俺は帰らせもらう」

「待て。次は夷陵に起つ。相手は夏侯惇・夏侯淵だ。準備を怠るな」


…そうやって、肝心な話を後回しにするのだから、質が悪い。
最早、耳を傾ける気も無い。
くくっと笑う曹丕を残し、三成は些か乱暴に戸を閉めた。

その余裕が、無性に気に入らなかった。
わざとらしく嫌みを言ったとしても、曹丕が挑発に乗ることはない。
共闘したのも、まだ数えるほどだ。
曹丕という人間について、三成はほとんど知らなかった。

だが、苦しい立場に置かれていることは、言われずとも分かる。
曹操…彼の人は、戦国の世にまで名が伝わる、偉大な男だ。
それ故に、曹丕を認めず反発する者も多い。
その嫡男である曹丕が背負うもの、乗り越えなければならないものが大きすぎる。
一度崩れたら、人は立て直すことが出来ないほど、脆いものだ。


(それでも、貴様を慕い後に続く者が居るだろう。俺はその理由を知りたい。貴様の元に、武勇名高い男達が集まる理由を)


それまで、秀吉様の元へは戻れない。
三成は曹丕という男を見極め、その覇道の大成を見ていたいと思った。
いつの日か、遠呂智を打ち倒す好機が生まれるであろうことを予感し、此処に残ると決めたのだ。


「……、」


三成はふと足を止め、廊下の壁に背を預けて座り込む女性を見据えた。
いくら誰も見ていないからとは言え、皆が土足で行き来する床に直接座るなど、信じ難い。


 

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