人間性の限界



生きにくい子だと、ねねはまるで口癖のように言い続ける。
その言葉通り、石田三成は人好きのされない性格ゆえ、常に敵を作り続けていた。
その綺麗な顔を使って秀吉様に取り入ったのだろう、と言われた日には、その忌まわしい相手に報復しようと、日頃の些細な失敗や言動をまとめ上げ、報告して処罰を受けさせる。
これでは、恨みを持たれても仕方がないかもしれない。
とにかく、三成は自身の不器用さと、己の顔が女のようであることも、認めていた。


(悠生の世話を焼きたくなるのは…その顔が理由かもしれんな…)


妲己の命だからと渋々面倒を見ていたのは事実であるが、三成はどうにも悠生が気になって仕方がなかったのだ。
顔は勿論のことだが、悠生はどことなく危うげな、と言うより危なっかしい雰囲気を醸し出している。
男らしさはまるで感じられないが、成長すれば、より美しくなるだろう。

三成は初めて顔を合わせた時から、悠生に己と似たものを感じていた。
しかし、自分に比べ悠生は相当に鈍い子供であるため、このままでは何も知らず、良いように扱われかねない。
…既に情人が居ると言うのだから、もう手遅れかもしれないが。


「三成、考え事など珍しいな」

「フン、俺とて物思いにふけることもある」


それほど付き合いが長いと言う訳でも無いのに、いったい何が分かると言うのか。
反射的に悪態を付くも、話し相手は顔色一つ変えず、書に筆を滑らせている。
何でもない仕草が優雅に見えてしまい、何故か腹が立ち、三成はチッと舌打ちをした。

…成都城にて、負傷した悠生を連れ帰ってから数日が過ぎる。
最早、存命は絶望的かと思われた。
それほど、悠生は多量に出血していた。
死なせたくない、三成も強く思ったが、どうにもならなかった。


(妲己め…、幸村の槍で悠生が死ねば、俺は貴様の寝首をかきに行ったはずだ)


思い出すだけでも、非常に気分の悪い話だった。
あの遠呂智が直々に、死にかけていた悠生へ延命処置を施したのだから。
どのような気紛れであろう、だがそのお陰で悠生は一命を取り留めた。
しかし、今もまだ、悠生は死んだように眠り続けているため、三成は気を休めることが出来なかった。


「三成よ、何を考えている?」


此方を見もせずに、曹魏の嫡男は低く問う。
上からの物言いが酷く気に触り、三成はわざとらしく溜め息を漏らした。

成都の戦いで、三成は親友が幻影に苦しめられても手を出さずにじっと耐え、傍観に徹していたため、責を負われることもなかった。
続けて、此処に居る曹丕と共に夏口への出陣を命じられたのだ。
遠呂智軍を脱走した孫策を追撃するという、非常に面倒な任務であった。


 

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