溢れる激情



「熱い男って素敵よねぇ…そう思うでしょう?三成さん」

「……、」


趙雲も幸村も、必死だった。
声は聞こえないが、何かを叫び合っている。
槍が唸り、火花が散るほどの強い衝撃が、此方にまで伝わってきそうだった。
このまま、趙雲の熱意が届けば、幸村もきっと事実に気が付くだろう。
…しかし、悠生の不安は最悪な形で的中してしまう。
単に同士討ちを狙うだけではなく、人々の心を弄ぼうとしている妲己が、これで終わらせるはずがなかったのだ。


「力量は互角…ってところかしら?そろそろ、名軍師の策を披露しちゃいまーす」


妲己の指先から、きらりと光が溢れる。
すると、映像に変化が現れた。
趙雲と幸村の一騎打ちを邪魔する影が映り込んだのだ。
風を切って二人に襲いかかる弓矢の数々、それと、鉄扇の先から放たれた、青白い衝撃派…

たまらず、三成は妲己を睨み付ける。
だが固く口を閉ざしてはいるが、三成は唇を戦慄かせ、怒りを押さえ込んでいる。
悠生もやっと、三成の動揺の理由に気が付いた。
間一髪攻撃を交わした、趙雲達の驚いたような表情を見ずとも明らかだろう。
それらの攻撃を仕掛けたのは、三成と悠生の姿形をした幻影兵だったのだ。


「ねーえ三成さん、幸村さん達はお友達を斬れると思う?」

「…舐めるな、幸村とて武人だ。本物と偽物の区別ぐらい付くだろう」

「ふふ、少しぐらい心は掻き乱されるんじゃない?もしかしたら、三成さんのことまで哀れな亡者と思い込んで斬っちゃうかもね!」


心を攻める、なんと卑劣な策だろうか…。
だが、三成の言う通りだろう。
たとえ敵が友の顔をしていたとしても、趙雲や幸村が偽りの存在に惑わされるはずがない。
現に幸村は怒りを露わにし、三成の偽物を槍で一突きし、すぐさま幻影に打ち勝った。
三成が亡者として蘇るなどとは最初から頭に無いのだ、それだけ幸村は、友である三成について知り尽くし、そして信頼している。

しかし悠生は、玉から目が離せなくなっていた。
趙雲は槍で無数の矢の雨を弾き飛ばしているが、なかなか偽物の悠生を討とうとしないのだ。
歯を食いしばり、苦しそうな顔をして…
悠生の顔をしているからとは言え、趙雲に幻影を討てないはずがないだろう、ゲームでは…劉備の偽物を、躊躇わずに斬っていたではないか。
体勢を立て直した幸村とも向き合わねばならず、趙雲は窮地に陥ってしまった。


 

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