悪意ある運命



三成はずかずかと部屋に踏み込むと、円卓を囲む面々を鋭い目で見下ろした。
許チョだけは苛立つ三成にもお構いなく、普段と変わらぬのんびりした態度で接する。
こういう大らかな人間が、場の張り詰めた空気を壊してくれるのだ、貴重な存在だろう。


「三成も一緒に団子、食べるだよ」

「俺は後で良い。おねね様、悠生を借りても宜しいですか?妲己に連れてこいと命じられたのです」

「妲己って、三成が従っているあの女の人だよね?あたし、心配なんだよ。どうして悠生を戦場に出そうとするのかね…」


妲己からの呼び出し…きっと、次の戦についての話をされるのだ。
名目上は反乱軍の討伐だが、妲己にとっては、落涙の捕縛が最優先事項であろう。
また、嫌な役目を与えられるのだろうか。

ねねの中で、悠生は元服もしていない童子、という位置付けにあるようだが、そんな子供が戦に出なければならない現状に、優しい彼女は心を痛めていた。
だが、誰も妲己には逆らえない。
逆らえば大切な人々が傷付く…、守るため、生きるため…嫌々でも従うしか術がないのだ。


「妲己は悠生を囮にし、"人捜し"をしているようです。悠生の姉が、遠呂智にとって脅威になるからと」

「三成、それってどういうことだい?」

「私も気になります。そのような話を聞くのは初めてですね」


三成の発言に、ねねも黄皓も興味を示すが、それ以上は妲己から口止めされているので、と嘘かも分からない言い訳で締めくくられた。
許チョだけは顔を餡やみたらしで汚し、皿が空になるまで口をもごもごさせていた。



妲己の私室は城の中枢にあるらしい。
黙々と目的地に向けて足を進める三成に着いていけず、悠生は自然と小走りになってしまう。


「貴様、あの黄皓と懇意な仲なのか?」

「そう、ですけど…」

「知らぬ訳でもあるまい?貴様が妲己に人質に取られている"阿斗様"は、あの黄皓によって暗君となるのだぞ」


戦国時代の人間、特に学のある三成のような者は、海を越えて伝わった三国についての文献を目にしたことがあるのかもしれない。
だが、それを三国時代の人間に未来として打ち明けてしまうことは、タブーではないのだろうか。
何処が三国を統一するとか、あの武将はいつ討ち死にする、とか…その時代に生きる人々にとって、知らなくても良い未来を。
阿斗は…、劉禅はいずれ、劉備が築いた蜀の国をみすみす滅ぼすことになるのかもしれない。
だが、遠呂智を倒した後も、世界は融合されたままかもしれないから、正しい歴史など既に存在はしないのだ。


「それでも、僕は阿斗も黄皓どのも、大切なんです。それに今の二人は、とても良い人ですし…」

「はっ。黄皓だけとは限らないな。貴様のような甘い奴が主を駄目にする…、早々に接し方を改めることだ」

「……、」


阿斗が道を踏み外しそうになったら、自分は…きっと、止めようとするはずだ。
友達が大きな間違いを侵そうとしているのを、黙って見ていられない。
…だけど、言うことを聞かなければ嫌いになる、なんて言われたら?
そんな酷いこと、阿斗は決して言わないと信じているが、もしもの時のことを考えると胸が痛くなる。


 

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