始まりの夜明け




ふわふわと、
柔らかく…あたたかい、人のぬくもり。
その心地よい熱がもっと欲しくて、悠生は頬をすり寄せた。


「ん……?」


あたたかい、のは有り得ないだろう。
自分は死の淵に立っていたはずなのに。

どうやら、寝台に寝かされていたらしい。
重い瞼を開けば、目の前にはしわくちゃの布…誰かの上着らしきものが見えた。
抱き締められている、そう悟った悠生は慌てて体を離そうとしたが、どうにも力が入らない。
背中に回された腕はとても細く、悠生は初めて添い寝をしている人物に気が付いた。


「あっ、あと…」

「お目覚めですか?」

「…趙雲…?」


何故か悠生を抱き枕代わりに爆睡しているのは阿斗で、寝台の傍、椅子に腰掛けて此方を眺めていたのが趙雲だった。
悠生は何とか起き上がり、状況を把握しようとするが、上手く頭が働かない。

村が賊に襲われた、星彩に、会った。
ここは蜀の…成都の城なのだろうか?


(…生きてる…?美雪さんは死んじゃったのに、僕が生き残るなんて…!)


悠生はぎり、と唇を噛んだ。
胸が張り裂けそうなほどに痛くて、酷く苦しい。
この世界に生きる意味が無い人間を、救ってくれなくて良かったのに。
生きるべき人…美雪は、死んでしまったのに。


「…ぅ、ぐっ…」


多量の血が溢れていたことにも気付かず、ぐるぐると考え込みながら唇を噛みしめ続けていたら、趙雲は何を思ったか、次の瞬間、悠生の口に指をねじ込んだ。
舌をぐっと押さえつけられてしまい、一気に吐き気がこみ上げてくる。
まるで意味が分からず、悠生は息苦しさから涙目になるも、息を荒くしながら負けじと趙雲を睨み付けた。


「何をお考えになっているかは知りませんが、いずれ唇を噛みきってしまいますよ?貴方が負った最も酷い傷は、唇と舌を噛みしめたことによるものでした。そのように自傷を続けられると、丸一日寝ずに貴方の看病をした阿斗様が悲しまれます」

「……っ、」


喉が開く痛みと息苦しさに耐えられず、本格的に泣いてしまいそうになる。
やめろ、と目で訴えたが、趙雲は聞いてくれそうになかった。
他人の指の味など知りたくもない。
いっそ噛みきってやろうかとも思ったが、呼吸をするのが精一杯で、どうすることも出来なかった。


「は…っ、ひど、い…!」


意識が朦朧としてきたところで、悠生は漸く解放された。
これだけ騒いでも阿斗は目覚めない。
今はその方がありがたい、こんな情けない姿は見られたくなかった。

趙雲は悠生の唾液に濡れた指を拭うと、何事も無かったかのように爽やかな笑みを浮かべた。


 

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