誇り高き御心



西の陣はしんと静まり返っていた。
将兵は棒立ちになったまま微動だにせず、完全に無防備な状態であるのだが、敵に手を出された様子もない。
この地から遠呂智軍を追い出すことだけを目的としているねねは、極力無駄な犠牲を出さないように気を配っているのだ。
幻影兵も含め、数を誇る人海戦術も、敵の士気を削ぐためだろう。
三成がねねの考えに気付かないはずもないが…彼が妲己の命令を受け、忠実に従っているだけとも思えない。

先に陣に辿り着いていた五右衛門が探りを入れたらしく、三成隊と五右衛門が合流してすぐに、至る所からわらわらと忍びが湧き出てきた。


「こいつらを全員倒しゃあ、術がとける寸法よ!」


五右衛門も協力し、現れた隠密部隊を軽々と潰していく。
やはり数は多いが、少し攻撃を加えただけでふっと消える…、きっと、ねねに無理はするなと指示されていたのだ。
悠生も緑に輝く弓を雨のように降らせて応戦した。

黒い装束の忍びの姿が全て消えると、遊軍はたった今目を覚ましたかのように慌てて辺りを見渡し、そして状況を把握する。
術によって意識が無かった間のことも覚えているようだ。
気付けば、五右衛門の姿も消えていた。
泥棒だけど、約束はきちんと守った…、案外、悪い人ではないのかもしれない。


「む!あれは…三成殿!本陣の方角に狼煙が見えるでござる!」

「何だと…全く…董卓は何をしているのだ!」

「このままでは、張遼殿が…」


もくもくと空に上昇する白い煙。
張遼に頼りきりの董卓が命の危機を感じるほど、本陣に敵の侵入を許したということだろう。
真っ先に狼煙に気付いた徐晃は陣を守備する張遼の身を案じ、許チョも、怒りを露わにする三成に指示を仰いだ。


「三成、どうするだよぉ。本陣がやられたら、おいら達が負けるんだか?」

「総大将が無能だからと、言い訳にもならん。遊軍はこのまま北上し、北の敵拠点の制圧を。俺達は本陣の救援をした後、東の道から敵本陣を目指す!」


初めから期待されていなかった総大将。
その無能ぶりは、悠生の想像以上のものだった。

董卓もまた、死地から蘇った一人のはず。
貂蝉を使った美女連還の計により、呂布によってその命を奪われた。
再び現世に舞い戻った董卓は心改めることもせず、本能のままに生きている…救いようのない人間だ。


 

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