誇り高き御心



「拠点を制圧せよ!…監車があるな。誰か捕らわれているのか…?」


三成の指示を受け、兵達は精力的に敵兵を薙ぎ倒していく。
柵を幾重にも張り巡らされた内に、頑丈な造りの監車が鎮座していた。
中に押し込められていた人物を見た三成は顔をしかめ、そして許チョは的外れな問いをする。


「おめぇ、腹減ってるだか?」

「ああ!ペコペコだ!」

「なら、おいらが出してやるだよ」


待て、と三成が制止する。
明らかに怪しい人物をも疑わない純真さは、あまり褒められたものではない。
悪さをしてねねに捕まった石川五右衛門、世に名を馳せた大泥棒を前に、三成は非情な宣告をする。


「俺が貴様を助けるとでも思ったか…?天下の大泥棒も地に墜ちたな。じゃあな」

「ま、待ちやがれ!頼むよ、な?助けてくれたら俺様が、ねねの術、あ、といてやらぁ!」


五右衛門の芝居がかった台詞は胡散臭いが、今は藁にも縋らなければならない状況。
三成は物凄く嫌そうに舌打ちをすると、許チョにくっついて成り行きを見守っていた悠生に監車を壊すよう命じる。

重大…でもないが、役目を与えられた。
頷いた悠生は、腰に括り付けていた小さな弓を手にし、五右衛門の監車の軸を狙って矢を放つ。
ぎゅいん!と激しい轟音と共に飛んだ矢は見事に命中し、一瞬にして監車をバラバラに破壊する。
あまりにも衝撃が強かったのか、檻から解放された五右衛門はらしくもなく尻餅を付いた。


「コラ!そこの餓鬼、俺様を殺す気かぁ!?」

「無駄口はそれまでだ。約束通り、術を解いてもらおう」

「ちっ。じゃあ、俺様に着いてきな!」


悠生に喧嘩を売ろうとした五右衛門は、三成に一蹴され不服そうではあったが、西の陣に向けて走り出した。
時間が惜しいのだ。
三成は拠点を制圧した味方部隊を手早く纏め、五右衛門の背を追い掛ける。


「悠生、おめぇ本当は強いんだなあ。あの弓、きっと夏候淵も驚くだよ」

「そんな…!夏候淵どのと比べたら失礼ですよ…、僕の弓は実力じゃないし…」


馬上での会話のため、許チョに悠生の小さな呟きは届かないが、褒められたことが嬉しくない訳ではないのだ。
これが実力で身に付いたものならば、師匠が素晴らしいんだ、と胸を張って言えるのに。
弓の名手・夏候淵。
いつか顔を合わせるかもしれないが、その時は、黄忠の弟子として恥ずかしくない戦いをしなければと思う。


 

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