誇り高き御心



戦の全容は既に分かっていたはずだった。
だが、軍のためを思ってとは言え、それを伝えては疑念を抱かれかねない…
まずは、信頼を得なくては。
居場所を確保して、そこを拠点とし、遠呂智を倒すための糸口を見つけるのだ。


(もうっ…きりが無いって…!)


悠生はあえて幻影の弓矢を連射し、向かってくる忍びの集団を吹き飛ばしていた。
敵に致命傷を負わせることはないが、矢を射る度に突風が巻き起こり、相手を宙に浮かせ体勢を崩せることに気が付いたのだ。
それだけでも立派な援護になるだろう。
…ただ、自分の手で人間の命を奪うことが、怖いだけなのだが。

予定より、三成隊の出陣が遅れていた。
本陣東門には既に敵が押し寄せている。
あろうことか、董卓が本陣の安全を確保するまでは行かせぬ、と将兵を引き留めているのだ。
張遼が奮戦しているので問題はなかったが、何よりも敵の数が多い。
分身の術を使っているのだろう、見せ掛けの兵を蹴散らしても意味が無く、此方の体力が減るばかりである。


「なにぃ!?遊軍が動かぬだとぉ!?」


董卓の素っ頓狂な叫びが軍の士気を大幅に下げる。
西に待機しているはずだった遊軍に何度合図を送っても、沈黙を決め込んでいるという。
三国の人間達に、隠密集団・忍びの術など理解出来るはずがない。
董卓は術者を殺せと喚くが、忍びをよく知る三成だけが、敵兵を統べているであろうねねを思い、頭を抱えた。


「このままでは埒が明かぬ。張遼、此処を任せても良いか?」

「承知!この張文遠、必ずや本陣を守ってみせましょうぞ!」

「…心強いな。では、我らも出陣だ!」


おう!と威勢良く声を揃える三成の家臣団。
南門を開門し、徐晃、許チョを含めた部隊が一斉に飛び出した。
悠生も馬に乗り、風に靡く三成の鮮やかな髪を追い掛ける。

当初の予定とは異なるが、目指すは敵本陣ではなく、西の遊軍の陣だ。
術者が居るならば西の陣の付近だろうが、南側に布陣した敵兵の勢いを削いでおきたい。


(監車を壊して…隠密兵について教えてもらうんだよね…)


悠生は無言でいくつもの矢を放ちながらも、頭の隅では物語の一通りの流れを確認する。
ばふっと砂埃が巻き上がり、空高く浮き上がった忍びを味方の刃が貫いた。
鮮やかな色をした血の雨が降りかかり、それに伴う嫌な香りに、悠生は顔を歪めた。
ごめんなさい、と命を奪った相手に一々謝っていたら、いい加減にしろと怒られかねない。


(僕は卑怯だ…、でも…そうするしか…!)


敵を討つことは罪では無い。
むしろ、賞賛されるべき事柄だ。
ゲームでも、千人斬りは自らを無双と宣言出来る、名誉なことだったはずだ。
悠生は敵の首を取ると言う手柄を他人に無償で譲っているのだ。
それでは、臆病な子供と思われても仕方がない。


 

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