人々の心の音



「悠生殿、すまなかった、私が余計なことを言ったばかりに…」


悠生が全力で否定をしたことで、甘寧の言葉が冗談であることに気付いた張遼は申し訳なさそうに謝罪する。
しかし、三成や徐晃に妙なイメージを植え付けてしまったことは事実で…悠生が弱々しい瞳で睨み付けると、張遼は困ったように眉を寄せた。


「"黄悠"も"悠生"も、どちらも僕の名前なんです。好きな方で呼んでください」

「んん?なんで悠生には名が二つもあるだよ?」

「僕は本当は倭国の生まれですけど、こちらの世界で知り合った大切な人に…名前をつけてもらったんです。だから、両方とも僕の名前です」


許チョからの問いには、悠生もぎこちなく微笑んで、素直に理由を話していた。
不思議なことに、許チョの目を見ていると、自然と心が落ち着いていくのだ。
触れ合った人の心を和ませる力が、許チョには秘められているのだろうと思う。


(でも、皆の誤解をとくのは難しいだろうな…)


徐晃はともかく、三成は…、根は良い人なのだろうが、悠生にとっては接しにくい大人である。
甘寧に出てきてもらって真実を話させるのが一番だとしても、暫くはどうにもならないだろう。
面倒な肩書きを背負わされてしまったものだと、悠生は何処に居るかも分からない甘寧のことを思い返し、恨めしく感じるばかりだった。

悠生が溜め息を漏らすと、すると今度は張遼が、普段からは想像も出来ないほど自信なさげに、「宜しければ私とも仲良くしていただけたら嬉しいのだが」と小さな声で言った。
どうやら、仲間内での雰囲気を悪くしたままで出陣したくなかったようなのだ。
遼来来と夜な夜な子供を泣かせてきた、勇ましい武人の欠片も無いではないか。

だが、悠生は昔から、張遼のことを立派な偉人と尊敬していたのである。
そんな張遼に仲良くしてほしいと言われては、喜ばずにはいられなかったが、悠生は調子に乗ってもう一つ注文をつける。


「じゃあ、いつか…張遼どのが、甘寧どのと手合わせをしているところを、僕に見学させてくれませんか?」

「甘寧殿と手合わせを?ああ、約束いたそう。だが…悠生殿は変わったお方だな…、」


武勇名高い二人の英傑が武を競う様を、実際にこの目で見れるかもしれないと思ったら、わくわくしてしまう。
張遼は悠生の願いに初めこそ意外そうな顔をしていたが、悠生にしてみれば、悩みもせずに了承を貰えたことが嬉しかった。
辛く苦しい戦いも、乗り越えられるような気がするのは、きっと、自分は一人ではないのだと認識することが出来たから。



END

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