恐怖の向こう側



翌日、またも妲己に呼び出された悠生は、頬を真っ赤に腫らした黄皓に連れられ彼女の元へと向かっていた。
黄皓は呂布によって理不尽な暴力を受けたが、幸い骨にひびが入ることもなく、見た目よりも軽傷で済んだようだ。
元気でいてくれて本当に良かったと思う。
悠生が貂蝉の部屋に居ることを突き止め、扉の外で待ちかまえていたぐらいだ。


「今度はどんな話をするんですか?」

「あまり良い話ではありませんね。悠生殿を戦場に連れ行くため、ある軍団に貴方を加えたようで…その将と顔合わせをするそうです」


悠生を使って落涙をおびき出すという、妲己の非道な計画。
弟が遠呂智軍に利用されていると知れば、咲良は居てもたってもいられずに姿を現すかもしれない。
大好きな姉の命を危険に晒すと言うのに、それを知って尚、阿斗を裏切ることが出来ない悠生には、嫌だとは言えないのだ。


「石田三成という男をご存知ですか?」

「……、知ってます、けど…、えっ!?」

「はい。私は姿を目にしたぐらいですが…、少々扱いにくそうな男ですね。私ならば何があっても相容れないでしょう」


彼の何を思い出しているのか、黄皓はもの凄く嫌そうな顔で溜め息を漏らした。
その、石田三成とは。
寺小姓をしていたまだ若き日、秀吉に才を見出され、短い生涯を秀吉のために生き抜いた義の男。
だが無双の三成は人付き合いが苦手でツンツンした生きにくい男だ。
プライドの高さを考えれば、悠生のような子供を快く自軍に迎えるなど…全く想像出来ない。

三成が関わった壮大な物語の先の先まで思い返して不安を覚えた悠生だが、黄皓が足を止めたのでいつの間にか目的地に到着したことを知る。
一緒に来てくれるのかと思いきや、黄皓はひらひらと手を振って、頑張ってくださいと苦笑しながら告げた。


「私は入るなと命じられているもので。ちゃんと此処で待っていますよ」

「はい…、分かりました…」


妲己と、三成に呼び出されているというのに…一人も味方が傍に居てくれないとなると、少々不安だが…
目の前の扉が開けられ、渋々足を踏み入れる。
其処に待っていたのはやはり二人…、妖絶な装いをした妲己と、悠生の姿を見た途端、不快そうに顔をしかめる石田三成だった。

相手は目上の人と思い、悠生は一応、頭を下げた。
しかし三成はフンと鼻で笑うと、悠生を完全に見下し、馬鹿にするかのように嘲笑するのだった。


「妲己、このようなガキを俺の軍に入れようなど…、冗談にしてもくだらない。もう少し考えるべきだったな」

「ふふ、見た目は弱そうだけど、こう見えて悠生さんは凄いのよ!ねえ、そうでしょう?三成さんをあっと驚かせてあげて!」


……と、言われても、困ってしまう。
妲己は期待を込めた瞳で見つめてくるが、何も打ち合わせをしていないのに。どうすれば良いのだろうか。
へそ曲がりな三成に、悠生を隊の一員として扱う気にさせれば良い。
そのためには、人とは違うこの能力を…、恐らく、この不思議な弓の力を見せつけるべきなのだろうが、指輪から生み出された矢は人間には通用しなかったのだ。
従って、遠呂智軍に所属する悠生は戦力外…役立たずということになってしまう。


 

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