はじまり



光を取り戻した地を、青年は駆けていた。
尊敬する父、さらにはかつて愛していた女性と再会したばかりだというのに、二人に声をかけることもせず、彼がひたすら追いかけたのは、記憶よりも少しだけ背の伸びた少年の後ろ姿であった。


『待って!待ってください!』

『…どうしたの?』

『何処へ行かれるのですか?貴方の帰る場所は、此処にあるではありませんか』


一息で告げれば、少年は驚いたような表情をする。
だが次の瞬間には、ふわりと笑んで見せた。
いつからだろうか、いつも困ったような顔をしていた彼が、そのように笑うようになったのは。
青年は何も言えず、立ち尽くすばかりだ。


『お守りも返してもらえたし…、お姉ちゃんを捜し出して、渡しに行こうと思ったんです』

『そして、黙って行方を眩ますおつもりですか?』

『いつか、大好きな人が治める世界を、この目で見て旅するのも悪くないと思います。伝えてくれませんか?桃の花が咲く頃に、戻ってくるからって』


傍らの茶毛の馬に寄り添う少年は、小さく手を振った。
青年は、引き止める術を知らなかった。
だから、強く願う。
この空の下に居る、己と同じ気持ちを抱く者に、願った。
――愛しいと思うなら、今すぐこの場に参じて少年をその両腕に閉じこめてくれ。




 

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