彼の眠る萌芽



先程はあまり感じられなかったが、緊張からくる疲労は相当のものだったらしい。
ふらふらと歩く悠生を支える黄皓も、心配そうな視線を送り続けている。


「しかし、悠生殿の姉上は、村を賊に襲われ亡くなったのではありませんでしたか?」

「妲己が言うのは…、僕の本当のお姉ちゃんなんです。同じお母さんから生まれた、血の繋がっている…」

「そうでしたか…言われてみれば、貴方は周囲の者に自分の過去を明かすことをしませんでしたね。それに…響きが不思議だと思えた貴方の名は、三国に紛れ込んだ倭国の者の響きに近しいものだった…」


当たり前だ、それは全部、秘密にしていたこと。
黄皓は頭が良いから、言われなくとも悠生の隠していたことに気付いたのに、核心には触れようとしない。
阿斗様の寵児は三国時代の人間ではなく、遠呂智降臨より前にやって来た倭国の生まれだと。
悠生は訝しげに黄皓を見上げたが、彼は皮肉っぽくふっと笑うだけだった。


「貴方の傍に居ると毎日が命懸け…ということになりそうですね。阿斗様が悠生殿に惹かれた理由が分かったような気がします」

「……、ちょっと、意味が分からないです」

「刺激的で退屈はしない、ということですよ。好意的に解釈なさってください」


いったい、褒めているのか馬鹿にしているのか…
抗議しようかと思ったら、いきなり黄皓が足を止めたため、ぼふんと彼の背にぶつかってしまった。


「こ、黄皓どの…?」

「っ……、」


顔が見えなくとも、これまで冷静にふるまっていた黄皓の様子が急変したことは感じ取れた。
悠生を後ろ手に庇ったのは無意識下かもしれないが、悠生は黄皓の小さな呟きに、彼の目にしたものの正体を知った。


「あれは、呂布…、何故このような場所に…」

「呂布?」


黄皓の後ろから顔をのぞかせて前方を見れば、黒くまがまがしいオーラを放つ巨体が…、鬼神・呂布が居た。
まるで悠生達を待ちかまえていたかのように道を塞いでいたが、ゆっくりと、大股で近づいてくる。
今にもあの、格好いいロック調のテーマ曲が聞こえてきそうで、嫌でも、恐怖を感じずにはいられなかった。
擦れ違うことが出来なかった遠呂智兵達が、びくびくとしながら事の次第を見守っている。


 

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