その光の名残



趙雲が知らぬ間に、阿斗は長年の想いを彼女に告げたというのだ。
星彩は躊躇うも阿斗の申し出を受け入れたようだが、それは関平が既に死したと思い込んでいたからである。
だが、たとえ彼が生存していたとしても、現状が変わるとは思えなかった。

関平の生死がどうあれ、次期皇帝となる阿斗の命を星彩が断れるかと言えば、否である。
星彩は生まれた時から、己の置かれた立場をよく理解していたはずだ。
ただ今は、慕う幼なじみへの気持ちがかき乱され、混乱しているだけなのだ。
聡い彼女はこれからどうすべきか、趙雲に答えを求めずとも、自分の力だけで答えを見つけられるだろう。


「いつか、星彩が阿斗様の皇后となったとしても、無理をしてその想いを封じ込めることはない。ああ見えて阿斗様は心の広い御仁だよ」

「…はい」


叶わぬ恋だと分かっていても、想い続けることは自由であるはずだ。
しかし、行き場を無くした恋情をこれからどう扱うべきか、非常に難しいことである。
迷い悩む星彩を相手に、偉そうに大人の意見を語りながらも、趙雲は悠生のことを思い出していた。
…星彩に比べれば、自分はまだまだ青いのではないか。

誰にも触れさせずに閉じこめて、私だけの傍に置きたい。
愛しさにかこつけ、胸の内ではそのような危ない想いを抱いている趙雲だが、実行しないのは、阿斗への忠誠心を忘れていなからだろう。
だが、再び手を出さない自信など無かった。
毎夜のように夢に見ていた悠生は可愛らしくも扇情的で…誘われるまま、何度その唇を吸ったかも分からないほどだ。
だが、夢や幻では満足出来ず、すぐにでも生身の悠生をかき抱きたいと願っている。
己の情けなさに趙雲は苦笑するが、隠しきれないほどに愛しいのだから、致し方ない。


(必ず貴方を取り戻してみせる…必ず…)


戦場には不要な雑念を振り払うかのように、趙雲は目の前の敵を綺麗に一掃する。
焦る気持ちはあるが、急いてはいけない。
左慈によって齎された希望は、趙雲は自らが戦う理由、生きる理由となった。
劉備を目指せば自然と阿斗に辿り着き、阿斗を目指せばきっと悠生にも近付ける。
趙雲は心から願い、純粋なほどに信じきっていた。


脱出拠点に辿り着いた一行は、再び左慈に導かれ、新たな道を目指すこととなった。
そして左慈は語る。
仲間を集め、傷付いた翼を癒し、大徳の下へ飛ぶようにと。
劉備こそが蜀の希望、それは間違いない事実であるが、趙雲が龍となって迎えに行きたいのは何も劉備だけではないのだ。
当然と言えば当然、趙雲の秘められた心を知るものは、全てを見通す力を持った左慈のみであった。



END

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