その光の名残
「ふむ。そなたの魂は輝きを取り戻したようだ」
「ええ…感謝いたします。左慈殿、あの…」
左慈なら知っているであろう、悠生の行方を尋ねようとした趙雲だが、その言葉は呑み込まれた。
侵入者に気付いた城兵が騒ぎ出している。
決して捕虜を逃がすまいと、一目散に此方に向かっているのだ。
無駄話をする余裕など、微塵も無かった。
「趙雲殿、追っ手を片付けましょう。私が先導します」
「あ、ああ。頼んだよ、星彩…」
…星彩の前で、主君である劉備より悠生の身を案じる姿など見せられない。
趙雲に向け、意味深な視線を送る左慈だが、本隊を避け西の道より撤退せよとの言葉を残し、音に聞く仙人は霧のように姿を消した。
長い期間拘束されていた趙雲の体は鈍っており、元の感覚を取り戻すには時間が必要だ。
幸いか、武芸の才のあった星彩は過酷な戦でも通用するほどに腕を上げており、義弘もこの状況を楽しむかのように、趙雲を庇いつつ自ら敵を蹴散らしていく。
「趙雲殿…、左慈殿がおっしゃっていたのですが、関平が、生きているらしいのです」
「それは確かか!?そうか…喜ばしいことだな」
「……、」
脱出拠点に向け、苔むした道を走っていた一行だったが、いつしか義弘が自ら前に出、趙雲達を守る形となっていた。
星彩は左慈に与えられた幼なじみの無事という吉報を、複雑な想いで受け止めたようだ。
関羽・関平父子が呉軍の手により処断されたのは記憶に新しいが、このとき趙雲は、それは誤報であったのだと自然な解釈をした。
世を乱すために降臨した魔王の影響で死者が蘇った…などと考えるはずがない。
「実は私、阿斗様に求婚され…承諾の返事をしたばかりなのです」
「なっ…星彩…」
「このような個人的な話を戦場でするべきではありませんが…私、このままでは阿斗様にも関平にも合わせる顔が無くて…」
星彩の表情に、初めて陰りが生まれた。
いくら趙雲が色恋に疎くとも、星彩と関平…若い二人が互いを認め合い、想い合っていることには気付いていた。
阿斗が星彩を慕い、関平には尊敬と敵意が混ざり合った複雑な念を抱いていたことも、知っていた。
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