凍った涙
「あなたは、生きなさい」
「……、」
厳しい物言いをするが、ゲームをプレイした悠生は、星彩が心優しい女性であることを知っていたつもりだ。
だけど、生きろと言われても困ってしまう。
愛する家族を失ってしまったのだ。
心から信頼出来る友もいない、それなのに。
(今更…誰のために生きろって言うんだよ)
星彩によって、無理矢理に家から引きずり出された悠生は、改めて、地獄を目に焼き付けた。
此処が、第二の故郷となるはずだった…、そう、信じていたのに。
家々や田畑は炎に包まれ、至る所に傷を負った村人が倒れている。
大人も、よく話を聞かせた子供達も。
同じような服を着た兵士達が、遺体を運んで、綺麗に並べている。
息のある者は、手当てをするために幕舎に連れて行かれるが、それも数える程度だった。
耳を塞ぎたくなるような呻き声が聞こえたが、それもすぐに小さくなり、消えた。
(此処は僕の居るべき場所じゃない…こんなの…違う…!)
ぐらっ、と世界が揺れた。
血の巡りがどっと速くなり、息をするだけでも肺が焼けてしまいそうだった。
急ぎ幕舎へ向かおうと悠生の手を引く星彩のおかげでなんとか踏ん張ったが、目眩を起こしてしまえば最後、意識は闇へと一直線だ。
どこでも良いから逃げ出してしまいたかった、死んだ方が断然マシだと思えた。
「は…、っ……」
首を絞められたかのように息苦しい。
背には汗が流れているのに、ぶるぶると、震えが止まらないのだ。
悠生は血が溢れるほどに唇を、舌を噛んだ。
このような痛みでは気が紛れない。
ただただ、気持ちが悪い。
唇の端から、飲み込まなかったために溢れた血液が一筋の線を作り、顎に流れる。
いつしか、星彩の手の感覚も、分からなくなってしまった。
「う…、げほっ…」
「ちょっと…あなた!しっかりしなさい!」
口いっぱいに鉄の味が広がっていく。
嘔吐してしまう。
手のひらで口元を押さえたが耐えきれず、ゴホゴホと激しく噎せ、地に崩れ落ちた悠生は、己の口から赤黒い血液が混じった胃液が吐き出されるのを見、静かに笑った。
(このまま…死ねたらいいのに…)
道を、見失ってしまった。
ごめんね、と声にならない謝罪の言葉を呟き、悠生はほとんど気絶するように目を閉じた。
夢の中でなら咲良に会える、そう思ったら、今までに感じたことがないくらいに幸せな気持ちになった。
END
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