曇り空に散る



孫策軍が合肥の地に辿り着いたのは、それから数日後のことだった。
幸いにも、布陣し体勢を整えるまで遠呂智軍が攻め込んでくることは無かったが、呉軍の劣勢を知った孫策は、苦虫を噛み潰したような顔で小さく舌打ちをする。


「親父と周瑜は合肥城に居るのか…。戦況は…ちっ、思わしくないようだぜ」


孫策の援軍を聞きつけた周瑜が手配した伝令により、皆は現在の状況を知ることとなった。
悠生は軍議の邪魔にならないようにと幕舎の外に出ていようとしたが、何故か周泰に連れられて、緊迫した話し合いの場に押し込まれてしまう。
捕虜だから、信用していないから、目の届く場所に居ろとでも言うのか。
訝しげに周泰を見上げるも、やはり彼の考えは読めなかった。


(わ…。ゲームと全く同じじゃないか…)


合肥の地図が広げらると、悠生は見覚えのある地形に驚き、息を呑んだ。
そこに描かれていたものは、何度も繰り返しプレイしたゲームのステージそのものである。
呉の将達は無事なのか、工作兵に橋は落とされていないか…、戦いの中盤に差し掛かる前に手を打てば、絶望的な完敗は避けられるかもしれない。


「孫策さま、あの…僕にこの橋を守らせてください。此処が落とされたら不利になってしまいます」

「待てよ黄悠、お前は此処に居ていいんだ。姉ちゃんは俺達が救ってやる」

「大丈夫です!行かせてください!じゃなきゃ、何のために連れてきてもらったのか…意味が無くなってしまいますから…」


いったい、何のために?
皆は姉を助けるためと思って従軍を許してくれたのだ。
だったら、安全な場所でじっと待っていられるはずがないではないか。

孫策軍の、そして孫呉の受ける被害を最小限に抑えるためには、兵の犠牲を減らし、出来るだけ早く戦を終わらせなければならないのだが、負けるにしても、呆気なく負けては意味が無い。
最後まで橋を守りきれば、甘寧が…そして、曹操の計らいで魏から援軍に来ているであろう張遼が、敵方の本陣へと乗り込めるはずだ(本当に、咲良も其処に居るかもしれない)。


「だがな、相手の軍師はどうやら蜀の人間らしいぜ。さっさと敵に降伏した情けねえ奴らだが、お前にとってはかつての仲間なんだろ?辛いだろうが…」

「こんな時に寝返ったりしません。お願いします、行かせてください!」

「そこまで言うなら…しゃあねえな。じゃあ、周泰!黄悠の護衛に着いてってやれ」

「…御意…」


背後から聞こえる低い声に驚き、肩が跳ねる。
いきなり名指しされたにも関わらず、周泰は少しも躊躇わずに頷いたのだから。
こんな時こそ、孫権の護衛に徹するべきではないのか、捕虜の子供に構っていて良いはずがないだろう。
周泰を見ていると無性に悲しくなり、悠生はまた唇を噛んでしまった。

居心地の悪さに耐えられなくなった悠生は孫策に一礼すると、尚香に貸してもらった弓を手に、急ぎ足で騒がしい幕舎を後にした。
共に行動することとなった周泰と話をする余裕も無かった。
ただ、息が詰まりそうなぐらい、虚しさを感じていた。


 

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