曇り空に散る



天には雲一つ浮かんでいないというのに、青い空はどこにも見当たらなかった。

悠生は孫策軍の一員として、合肥に向けて旅立った。
一度も戦の経験の無い子供が(しかも捕虜である)、場違いにも程があろう。
実際に、悠生の戦いぶりを目にしているのは小春だけであり、従軍を許してくれた孫策も、本当は悠生を戦力にしようとは考えていないのかもしれない。


(大丈夫…僕に出来ることをすれば良いんだ…)


マサムネに跨り、軽やかな蹄の音を聞く。
光の弓を出しっぱなしには出来ず、だからと言って武器を持たずに戦地へ赴く訳にもいかないので、尚香から弓を貸してもらった。
可愛らしい花があしらわれて一段と目を引く…、喜んで良いものだろうかと悩んだが、悠生は素直に礼を言った。

尚香のことは好きだ、小春だって友達になった。
だけど本心では、孫呉の力になれなくたって良いと思っている。
それでも今だけは…、咲良のことを考えていようと思った。

今回の合肥の戦いで、遠呂智軍の軍師は…劉備を人質にとられ、従わざるを得なかった諸葛亮のはずである。
成都城を敵に奪われ、同じく人質となった阿斗は恐らく劉備と一緒に、どこかに捕われているだろうから、諸葛亮に上手く接触出来たとしても…、意味が無いのだ。
諸葛亮は本気で遠呂智に懐柔されたような演技をしていた。
仲間だったはずの蜀の面々にも、妻である月英にも容赦をしなかった。
悠生の姿を見かけたところで、諸葛亮の表情が変わるとは到底思えなかった。


「…黄悠殿…」

「周泰どの?何でしょうか…」


名を呼ばれて気付いたが、いつの間にか隣を周泰が走っていた。
彼はずっと、先頭集団の孫権の傍に居たはずだが…
相変わらずの無表情で、何を考えているのかも分からない。
それに…気まずい。
意識しているのは此方だけかもしれないが、咲良が連れ去られたと言うのに、ちっとも取り乱さない周泰が気に入らなかった。


「…孫策様と孫権様が…心配しておられました…無理をされぬよう…」

「僕は平気です。僕のことは気にしないでください」

「……、」


周泰の視線から逃れようと、悠生は真っ直ぐ前を見るが、彼は何か言いたげに、だが黙したままに、悠生を見つめ続ける。


「…お助けします…必ず…」

「そうですか…」


感情を抑えようとするほど、声が震えてしまう。
周泰と甘寧は、違うのだ。
落涙を想う心は同じでも、周泰は咲良への愛情より、孫権への忠誠心が勝っていただけの話だ。
それが当たり前のことなのだと思う。
だけど、口を開けば周泰を傷つける言葉を吐いてしまいそうで、悠生は唇に歯を立てた。


(咲良ちゃんは可哀想だ…こんなの望んでいなかったのに。ごめんね、咲良ちゃん…)


 

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