遥かなる人へ



「親父が合肥に…、周瑜も居るなら、俺も助けに行かねえとな!」


孫策のこれからの行動が、ゲームと差異がないか見守るためにも、どうにか戦場に着いて行きたいと思ったが、口に出来る相応の理由が見つからない。
お前なんかじゃ戦力にもならないと一蹴されたら終わりだ。
頭を悩ませ、焦りに顔を強ばらせる悠生だが、離れた場所に俯く尚香を見付け、思わずじっと凝視してしまった。

敵衆に備えてか、彼女もまた武装して、見慣れた圏を手にしている。
だが、普段と違うのは服装だけではなかった。
輝くような笑顔が失われていることに、違和感を持たずにはいられなかった。
それに、尚香の性格なら、孫策との再会を人一倍喜びそうなものだが…


「あの、尚香さま…?」

「黄悠…そう、策兄さまと小春が連れてきてくれたのね。迎えにいけなくてごめんなさい」

「いいえ。尚香さま…、どうか、しましたか?」


尚香の瞳は微かに赤くなっていてる。
…もしかしたら、泣いていたのだろうか。
気の利いた言葉がかけられず、悠生は悲しそうに笑う尚香を見つめることしか出来なかった。


「ごめんなさい…わたし…」

「尚香さま…どうして謝るんですか?」

「私が…私が傍にいたのに…、落涙が敵に攫われてしまったの!」


尚香の悲痛な叫びに、呼吸が止まりそうになった。
目の前が真っ白になり、喉がぎゅっと詰まる。
間を置かず、ぽろぽろと頬をつたって流れる尚香の透明な涙が、悠生に残酷な現実を突きつけた。


「お姉ちゃん、が」

「妖魔のような女だったわ…落涙を返してほしければ合肥に来いって…、それを聞いた甘寧が真っ先に飛び出して行ったのよ…凌統や、陸遜も。父さまの件もあったから、誰も止めなかったの…」

「……、」


恐らく妲己だろう、咲良を攫ったのは。
これまで、慎重に行動していたであろう彼女が、城の中へ堂々と姿を現したことにまず驚いた。
まさか、直接手を出すなんて!
尚香も皆と共に落涙の救出に向かおうとしたが、城と女性たちを護るために泣く泣くとどまったのだと言う。

太公望の話では、咲良は遠呂智を眠らせる子守歌を奏でられる楽師だ。
姉を連れ去った妲己が、その命を奪わないとも限らない。
しかしまだ、咲良は旋律を知らないはずなのだ。
何にせよ、一刻も早く咲良を救出しなければ。


 

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