遥かなる人へ



「小春さま…この機会を逃したら、僕はずっと捕虜のままです。僕の願いは…蜀に帰ることだけだから…」

「分かっております。わたしは…あなたさまのお気持ちは…分かっているつもりです」


姉に会うことをあれほど拒み続けた悠生が何を望んでいるかなんて、両者に近い立場にあった小春には容易に察せただろう。
だが、彼女は意識的に悠生を引き止めようとしている。
…友達だと、思ってくれているから?

もし悠生が無事に蜀へと帰れても、遠呂智にひっかき回されて、阿斗も趙雲も、皆がバラバラになっている可能性の方が高い。
だけど、それでも…帰りたいのだ。
今すぐにでも帰りたい。
しかし、欠片ほども事情を知らない孫策もまた、小春の味方のようだ。


「お前、蜀の人間なのか?帰りたいっつうが、城の外はもっと危険だぜ?きっと蜀も同じような状況だ。しかもお前、今にも倒れそうじゃないか」

「僕は平気で…っ…わわっ!!」

「嘘付け!」


抵抗する間も無く、悠生は片手で、孫策の肩に担ぎ上げられてしまった。
想像以上の馬鹿力である。
中学生男子の平均以下とは言え、それなりに体重はあると思うのだが、こう軽々しく扱われるとなんだか情けなくなる。
暴れたら落とすぞ、と小さく脅迫され、悠生はぴたりと動きを止めるが…


「お、おろしてください!」

「嫌だって言ったら?なあ、お前、どうして小春を助けた?」

「そんなのっ…友達だからに決まってるでしょう!?当たり前じゃないですか!」


小春は、友達になりたいと言ってくれた。
だから、守らなければならないと思ったのだ。
悠生にとって友達とは、何よりも大事にしなければならない存在なのだから。
ただ、悠生の言葉に小春が感激し、目を輝かせていることには気付かなかった。


「何だか、前にも同じ台詞を聞いたような気がするぜ。変だな、お前とは初めて会うのにな…」

「え…?」

「なあ、俺を信じてくれよ。このいざこざが片付いたら、俺が必ず蜀へ連れて行ってやるよ。約束する!」


悠生は孫策の言葉に首を傾げるも、彼が蜀へ連れ帰ると発言してくれたことに素直に喜ぶことが出来なくて、無性に悲しくなってしまった。
いくら孫策でも、出来ないことがあるだろう。
悠生の願いは、叶わないかもしれないのだ。


「そんなの無理です…蜀と呉は喧嘩中なんですよ?簡単には仲直り出来ません」

「はは!喧嘩は良かったな。絶対大丈夫だ。俺が言うんだから間違いねぇ。だから今は一緒に来るんだ。分かったな?」


有無を言わせぬ物言いだ。
だが孫策が言うと、本当に大丈夫な気がしてくるから怖い。
それも、彼の長所のひとつなのだろう。
渋々頷いた悠生だが、小春にくすくすと笑われてしまい、またもや情けなさに落ち込むのだった。


 

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