遥かなる人へ



死ぬかもしれない、とは考えたくなかった。
いつだって、危険な目にあっても、ギリギリのところで生き延びてきたのだから。
絶対に、死んでたまるか、と悠生は歯を食いしばった。

もう、何本矢を放ったことだろう。
悠生の呼吸は荒く、立っているのだって本当に辛いのだ。
遠呂智兵の胸へと突き刺さった矢は彼らの命を奪い、淡い光の粒となって空へと消えていく。
いったい、誰を倒せば終わるのか。
ゲームのように名前が表示されていれば、その一点に狙いを定められるのに。


「う…、くそっ…!」


ぐにゃりと視界が歪み、踏ん張りきれなかった悠生は弓から手を離してしまった。
途端に、弓は力を失ったかのように消えてしまう。
漸く生まれた隙を敵が見逃すはずもない。
鋭い刀の切っ先をうずくまった悠生の首に突き付け、勝ち誇ったようににやりと笑った。


「散々手こずらせてくれたなぁ…」

「い…っ…」

「おい、傷付けるなよ。妲己様には生け捕りにしろと仰せつかったんだろうが」


乱暴に髪を掴まれ、壁に叩き付けられた。
激しく頭を打ち付け、吐き気がする。
脳震盪を起こしたかのようだった。
刃先がかすって、首がずきずきと痛んだ。
うっすらと目を開けたら、数人の遠呂智兵に囲まれ、全身を舐め回すような視線を浴びていた。


「ヒヒッ、よく見れば可愛い顔をしているじゃないか…」

「殺さなければ良いんだろう?少しぐらい楽しませてもらおうか」


こいつらは何を言っているのだ、と悠生は回らない頭でぼんやりと考える。
ただ、馬鹿にされていることは伝わった。
意識が混濁している悠生には、伸びてきた手を振り払うことも出来ない。
次に目を閉じたら眠ってしまいそうだ。
色の悪い手が悠生の服を掴もうとした時、彼らの背後で痛々しい音が響いた。


「だ、誰だ!?ぐわあ!」

「その汚い手を離すんだな!」


どこかで聞いたことのある声、だった。
たった一撃で、悠生を取り囲んでいた敵たちを吹き飛ばす。
強い、男だ。
この人は…誰だっただろうか。
きらきらと、太陽よりも眩しい男だった。


「黄悠さま!ああ…悠生さま…しっかりしてくださいませ!」

「う…ぅ…小春…さま…?」


先程逃がしたはずの小春に名を呼ばれ、悠生は朦朧とする意識の中、必死に手を伸ばそうとするが、力が入らない。
次の瞬間、悠生の目は大きく見開かれた。
涙を流す小春に、強く抱き締められていたのだ。
髪から香る柔らかな匂いに気付いた悠生は、瞬時に正気を取り戻し、小春を押し返した。
きっと、悠生の顔は真っ赤になっていることだろう。


 

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