微笑む乙女



「こ、黄悠さまっ…お逃げください…!」

「小春さま……!」

「あなたさまはわたしの唯一の友なのです…傷つけたくないのです…!」


今にも泣きそうな顔をして、小春は悠生を庇おうと前に出る。
怖いだろうに、逃げ出したいだろうに。
友達だから、と言うのだ。
黄悠が落涙の弟だから守ろうとしているのではないのだ。
ただ…、嬉しかった。
その優しくて気高い心に、悠生までも泣きそうになったのだ。


「ありがとう…小春さま…」

「え……?」


弓を、構えなければ。
友人となってくれた少女を、この手で守るために。
指先に、強く願った。
誰の目にも見えなかった弓が、瞬く間に光となって悠生の手に握られる。
これには小春も驚くが、危険を感じた遠呂智兵は武器を手に、悠生に殺意を向け、襲いかかってきた。


「黄悠さま!!」


小春の声を掻き消すように、鋭い音を立て真っ直ぐと放たれた矢は、見事に敵兵の胸に命中した。
奇声を上げ、真後ろに倒れ、絶命する。
張り詰めた弓を握る手と、体全身がぶるぶると震えた。
安心よりも、恐怖が勝っていた。
…分かってはいたが、なんと、恐ろしいことをしてしまったのだろうか。
誰かを守るためとは言え、人を殺した。
あれは人ではないのかもしれないけど、世を生きていた命を奪ってしまったのだ。


「黄悠さま…これは…?」

「あ……、」


夢でも見ているような顔をして、空を見上げる小春が居た。
敵兵を貫いた矢が、すうっと…幻のように消えてしまう。
そして、力無く横たわる遠呂智兵の遺体が透け、光の粒子となって、ふわりと天へ昇っていたのだ。
不謹慎でも、素直に美しいと思ってしまった。
まるで、地に舞い降りて消えゆく運命のきらめく雪が、再び空へ帰っていくかのようで。


 

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