幸福の世界



また明日、と約束を交わし、子供達は悠生に手を振ると、家へと帰って行った。
…これで、見知らぬ少年と二人きりだ。
無邪気なちびっ子とは違う、この人は。
そう考えた途端、悠生は少しだけ緊張し、表情を強ばらせた。


「今の話を最初からしようか?それとも違う話が良いかな?どんな話が良い?」

「……、」


少年は暫し横目で此方を見ていたが、ふいっとわざとらしく顔を背ける。
全くもって意味が分からない。
呼びかける声は聞こえているはずなのに、彼はあからさまに無視をするのだ。
聞こえないふりをするなんて、どうして此処に残ったの?

悠生は気付けば喉がからからに渇いていた。
声が掠れないようにと唾を飲み込んだら、反射的に胸が痛みだし、ぎゅっと胸を押さえた。
緊張のせいで、抑えきれないぐらいに胃がムカムカして気持ち悪い。
だから嫌だったのだ、人と付き合うのは。
ちょっと気に入らないだけで、そういう人間だと決め付けて…自分のことも知ろうともしてくれないのだ。


「……を…、…たら」

「は?」

「せ、接吻をしただけで、何故姫君が呪いから解放されたのかと聞いておる!」


…真っ赤だった。
人の顔はここまで赤くなるものなのか。
彼はどうやら、白雪姫と王子様の接吻、に照れたらしい(悠生の問いかけにも答えられないぐらいに)。
一緒に話を聞いていた子供達だって、これほど過剰に反応しなかった。


「…なんだ、スルーされたのかと思っちゃった」

「する…?」

「ううん、なんでもないよ。でも、物語に現実的追求をしても、夢が壊れるだけだと思わない?」

「それは、そうだが…」


安心したら、胸の痛みは綺麗に消えた。
早とちりをしてしまって恥ずかしい。
彼は意外と素直な人で、悪意を抱いて悠生を貶すつもりなんて初めから無かったのだ。
悠生自身、自分にも非があるのは分かっている。
だけど、昔から人の視線を気にしながら生きてきたので、この内気な性格は意識してもなかなか直すことが出来なかった。


「接吻如きで愛しい女子を我がものに出来るのならば、苦労はしない」

「好きな人がいるの?でも、本気でやったら嫌われるからやめときなよ。あくまでも物語だしね」


思ったことを口にしたら、キッ、と睨まれてしまった。
間違ったことは言っていないと思う。
この人だって、もうとっくに夢見る子供は卒業しているだろうに。

そもそも、彼はどうしていちいち物言いが偉そうなのだ。
坊ちゃんなのは間違い無いが、どこかで見たような気がするのは…


 

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