燃え立つ炎



「…気に入らねえのに我慢なんて、俺には不可能な芸当だ」

「でも、でも僕は、」

「ああっ!うるせえガキだな…、もう黙れよ」


ぐっ、と胸ぐらを掴まれてしまう。
殴られる理由なんて無いのに理不尽だ、と思うも、悠生は言い返すことも出来なかった。

しかしそこからの甘寧の行動は、全く予想だにしないものであった。
怒りに任せ、殴るつもりだったであろう甘寧の片手は、がっちりと悠生の顎を押さえる。
逸らすことは決して許さないと、深く絡まる視線。
そして急に、噛みつくようなキスをしたのだ!


(な、ななっ、なんで…!!)


唇で唇を塞がれ、文字通り噛みつくように角度を変えて吸い付かれる。
悠生は驚きに目を見開かせて甘寧を見ていたが、一瞬…、趙雲の顔が重なった。
思い出となってしまった優しげなその、眼差しが…
今、口付けをしているのは、甘寧だというのに。

目を瞬かせ呆然としていた悠生だったが、甘寧の瞳が開かれたとき、やっとの思いで我に返った。
その瞳に見つめられると、恐怖によるものなのか、背筋にぞくりと震えが走る。


「…っ、う…」


呼吸だってままならないのに、悠生が嫌がっても、甘寧は離してくれない。
…ふざけているだけ、とは思えなかった。
その真っ直ぐな瞳が、やけに恐ろしいと感じる。

息苦しさに耐えきれなくなった悠生は、ついには甘寧の唇に噛みつき、更に全身全霊の力を込め、思い切り彼の頬を殴った。
ばしっ、ともゴンッとも形容しがたい、痛々しい音が響く。


「ってぇ…!何しやがんだよ!」


手がじんじんと痛む。
勿論、人を殴ったのは生まれて初めてのことだった。
甘寧は声を荒げるが、油断していたのかもろにパンチを食らい、頬を押さえ涙目になっていた。

だが、構ってなどいられない。
酒の味がする口付けを受け、悠生は嫌悪感と喪失感に、ショックを隠しきれずにいた。
女の子の服を着ていたせい?
それとも、女装姿がこれから嫁に行く姉にそっくりだったから?
だがそれよりも、悠生の心にダメージを負わせたのは、甘寧の行いではない。
甘寧に口づけられ、自然と趙雲を思い出してしまった自分自身に、酷く嫌悪した。


 

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