燃え立つ炎



半ば引きずられる形で、悠生は甘寧によって宴会場の外に連れ出されてしまった。
何処まで行くのかと尋ねることも出来ず、肌寒い夜の空気に震えたら、ぴたりと甘寧が足を止めた。
今宵は満月だった。
太陽のような光を放つ月に見下ろされて。
柔らかな光が中庭に射し込み、薄暗い回廊に立つ悠生の足下を照らした。

ちりん、と擦れたような鈴の音が響く。
手首を掴まれたまま離してもらえず、悠生は酔ってまともな判断が出来ないであろう半裸の男の背を見つめる。
入れ墨の龍の瞳は相変わらず恐ろしくて、でも振り返った甘寧の目は、思わずどきりとしてしまうほど、真っ直ぐだ。


「なあ、黄悠。あんたは黙って見ているつもりか?落涙が他の男のものになっちまうんだぜ?」

「え…甘寧どの、酔っていたんじゃ…」

「俺があんな酒で酔うかよ」


あれが演技、だったのか。
悪びれもなく、気付かなかったお前達がバカだとでも言うような態度を取るも、甘寧はやっと悠生を解放する。
掴まれていた方の手首が熱く…、彼の体温が高いのはやはり酒のせいだろう。


「甘寧どのは…嫌ですか?」

「はあ?俺が質問してんだよ。あんたは黙って答えりゃ良いんだ」

「う…、ぼ、僕は…」


ドスの利いた声を直に浴びせられた悠生はたじろぎ、縮こまって怯えてしまう。
元々不良っぽい位置づけではあれ、これまで接してきた甘寧は気さくなお兄さんというような雰囲気だったのが…嘘みたいだ。

再び目を合わせることが出来ず、俯く悠生の頭にはどうしようといった言葉ばかり巡る。
今までは、親身になって話を聞いてくれたのに。
周泰と落涙の婚約に異論があるんだろう、と憶測で問われても、心の内を甘寧に明かす義務は無いはずだ。


「ずっと、消えない不安が…ありました…周泰どのの一番は孫権さまだから。お姉ちゃんが泣いても、周泰どのは駆け付けてくれません」

「は、そりゃそうだ」

「でも、お姉ちゃんは僕を許してくれる。だからお姉ちゃんが決めたことに僕がとやかく言うことは出来ないんです」


爪先を見つめ、悠生は声を絞り出す。
許してくれる…なんて確証も無かったが、姉の性格ならばきっと、弟の決意を理解してくれる。
それならば、咲良の選んだ人生に口を出す権利は無い。
だから、悠生は何もしない。
甘寧が一人で怒っていたって、婚約が破談になることはまず無いだろう。


 

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