迷える者の囁き



「貴公の指には痕があるだろう。取り込まれた翡翠玉によって生まれし、戒めの痣が」

「……、」


相変わらず偉そうに上から視線を浴びせる太公望を見て、数日前の記憶を呼び起こした悠生は、掛布を引っ張り出し口元を隠した。
意識してやったことでは無かったためにすっかり忘れていたが、光で出来た幻の弓を彼に向けてしまったことを思い出し、悠生は謝るべきかと視線をさまよわせる。

無双武将でもない自分が、どこからともなく弓を出現させるなど…あり得る話ではない。
だが、過去に一度、尚香の弓を借りて矢を射ったとき、物凄い破壊力を目の当たりにしたが…あれは、どうにも説明出来ないが、確かに悠生が引き起こした現実だ。
バグを野放しにしていたため、ストーリーが進むにつれ変化が生じ、何かが起きているというのだろうか。

ある日突然現れたこの指先の痕を、太公望は戒めの痣と形容した。
もしや…これが、一連の出来事に関与しているのではないか。
だが悠生は、指輪などはめたことは無い。
美雪の指輪は関平に託し、そのまま、彼の命と共に樊城で失われたはずなのに。


「怪我…してませんか…?僕、弓を…」

「心配は無用。もとより貴公の生み出す矢は、私のような汚れなき者には当たらないのだ」


自分で言ってしまうところが彼らしい。
横になったまま会話をするのは失礼かと思い体を起こそうとした悠生だが、無言で制止され、とどまった。

太公望は長い足を組み、部屋の真ん中に置いてある円卓に座っている。
いったい何が目的で尋ねてきたのだろう。


「貴公が得た力は私が思った以上に強力だ。形作られた弓は幻を貫き、現世に在りし弓を手にすれば龍の目さえ射抜けよう」

「そんなの…、有り得ません。僕はバグだけど、ただの人間なんです…」

「クク…その人間が…彼らは死して尚、貴公を守ろうとしているのだよ」


言っていることが難しく、理解出来ない。
夢のような話だった。
まるで、悠生自らが無双の力を持っている、とでも言っているかのような。


 

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