迷える者の囁き




きらめく光を見ていた。
何故か、その輝きを目にした悠生は涙が出そうになった。
普段から闇に慣れている目には眩しくて、だけど、緑色に輝くそれは…、エメラルドではない。


『大丈夫よ…私が、守ってあげるわ。あの人と約束したもの…』


悠生は意識を朦朧とさせながらも、ぼやけた視界をどうにかしようと何度か瞬いた。
そして目にしたのは、優しい微笑み。
先程まで共に無双をプレイしていた咲良ではなく、知らない女性だった。


『だ、れ…?』

『私は美雪。安心なさい、貴方のような子供なら、村の皆も受け入れてくれるわ』


悠生はその時、夢を見ているものだと疑わなかった。
住み慣れた自宅の居間から山中に投げ出され、母とも姉とも違う、見知らぬ女性が微笑んでいるのだ。
そして悠生は彼女の元に厄介になり、三國無双の世界へ紛れ込んでいることを知るのだが、よくよく考えてみれば出来過ぎた話にも思えた。
優しさだけで、見ず知らずの子供を引き取り養おうと思うだろうか。それに、年若い娘が誰にも嫁がず、一人きりでいるなんて…

あのきらめく緑色の光の正体は、翡翠という石であった。
カワセミ、と同じ字を書く美しい石。
指輪を寂しげに眺める美雪は何も語らなかったが、きっと、どこか遠くにいる恋人に貰ったものなのだろうと、悠生は勝手に解釈していた。


(美雪さんは信じて、待っていたんじゃないの?指輪をくれた人がいつか帰ってくるって。違うの?)


好きな人との子供が望めなかったから、代わりにするために受け入れてくれた?
それもまた、可能性にしか過ぎなかった。
悠生の知る美雪はいつも笑っていた。
だがいつしか、指輪の輝きが鈍く歪んで見えるようになった。

彼女は、指輪に誓ったのだ。
母性愛が豊かな女性ではあるが、その誓いがあったからこそ、美雪は悠生を慈しんだ。
最期の時に指輪を悠生に託したのは、美雪が…己の果たすべき役目を理解していたから。


ゆっくりと目を開けたら、また、広がる闇。
周泰を見送った後、尚香がすぐに戻ってきたような気がするが、また熱がぶり返して眠ってしまったようだ。
静けさに包まれた、寒々しい部屋にひとりきり。
…しかし、寝返りを打つと、うっすらと光を纏う男が怪訝そうな顔で悠生を見下ろしていることに気が付いた。


 

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