心から心へと



(正史の周泰には奥方も嫡男も居たはずだ…、咲良ちゃんと結婚したら、確実に歴史が変わる)


未来を変えることは、後ろめたさはあれども悠生は仕方がないと割り切っている。
そうでなければ、自分が阿斗の隣に並ぶことも早々に諦めていたはずだ。
だから、周泰が落涙との婚姻を望むのであれば、新たな歴史を刻むことにはなるが別に、それを指摘する要因にはならないし、構わないと思う。
ただ…咲良が周泰の夫人となり、周泰の血を後世に繋ぐということは、もしかしたら現実に帰りたいと願う姉の意志を無視し、無双に縛り付けることにはならないか?


「お姉ちゃんの気持ちはどうなんですか?周泰どののことを…ちゃんと、好きなんですか?」

「…それは…」

「僕は…お姉ちゃんが良いって言うなら、良いと思います。だけどやっぱり、心配です。周泰どのは、孫権さまとお姉ちゃんが同じぐらい悲しいとき、孫権さまの方に行ってしまうんでしょう?」

「……、」


孫権と比べるなんて卑怯かもしれない。
だが、本心を言い当てられてしまった周泰は言葉に詰まり、苦しそうに唇を噛みしめていた。
どちらも、周泰の中では自分の命にも代えられる、愛しい大切な人であることは事実だろう。
だが少しだけ勝っているのが、孫権で。

妻や子よりも主君、時代柄、当たり前の考え方なのかもしれないが、悠生は素直に受け止められない。
咲良が泣いているとき、真っ先に駆けつけてくれないような男が夫になるだなんて…悲しい。


「将軍の妻となる女なら弁えているはずだとか…そういうことは言わないでください。お姉ちゃんは、僕は…厳しさを知らなかったんです。自由で、甘くて、生暖かい世界に生きてきたから。覚悟なんて、簡単には出来ないんです」


きっと周泰は、何も知らされていない。
だから、こうも真剣に結婚を考えるに至れたのだろう。
姉弟の故郷のことも、陸遜でさえ知っていた咲良という本当の名も。
生涯の伴侶になる女性の真実を何も知らないで、契りを結ぼうとするなんて、周泰が一人で先走っているような気がしてならない。

陸遜は生真面目で取っ付きにくそうな軍師だが、姉にとっては、本名を教えても安心だと、この人ならば大丈夫だと思えるような…、とにかく他の人物よりは信頼がおける存在であったらしい。
ならば、周泰は何なのだろう。
咲良の瞳に映る周泰とは、どのような人間なのだろうか。


 

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