心から心へと



全くもって訳が分からないが、悠生は寝台の上にきちんと正座をし、背の高い周泰を見上げた。
寡黙な男はなかなか口を開かず、ただただ悠生を見下ろすだけだった。
気まずさを覚えるより、悠生は初めて間近に見た三国志の英雄のひとりを、興味津々に観察し始める。


(…深い傷…、きっと、孫権さまを守るために…)


嫌でも注目してしまうのは、鼻から目にかけて走る深い刀傷だ。
失明してもおかしくない、下手したら死に至っていたかもしれない。
これは…、信頼の証。
命を懸けて、己が信じた主君を護る。
その忠実な心は、何処の国の将も一緒なのだ。


「…恐ろしいですか…?この…傷が…」

「いいえ。こう言ったらいけないかもしれないけど…格好良いと思います。大好きな人のために、そうなってしまったんだから…凄く、綺麗なものでしょう?」

「……、」


僅かに、周泰は目を細め悠生を見据えた。
顔の傷自体は本当に怖くないのだが、無言のまま視線を送られ続けて、さらにはその立派な巨体に圧倒され…、少しばかり、びくついてしまう。
悠生の怯えの理由に気が付いたのか(孫権の子供達にでも怖がられた経験があるのだろう)、周泰は身を屈め、床に膝を突き悠生に目線を合わせた。


「周泰どのは…お見舞いをしに来てくれた、だけじゃないんですよね」

「…貴方は賢い…だが…俺を恐れずとも…憎み…恨まれてしまうやもしれない…」

「え……?」


そのまま跪いた周泰は、立ち膝の体勢ではあるがまるで日本式の平伏のように、深々と頭を下げた。
顔が見えず、だから彼が何を思って次の言葉を口にしたか、悠生に周泰の気持ちを想像することは容易ではなかった。


「…落涙様と…夫婦の契りを結ぶ許可を…戴きたく存じ上げます…」

「めおとの…?って、お姉ちゃんと!?」

「…今日お訪ねしたのは…落涙様の…唯一の肉親である黄悠殿に…許しを戴かなくてはと…」


何から驚けば良いのかも分からなかった。
落涙と…咲良と結婚したい、なんて報告をされても、どうすれば良いのか。
困惑を隠しきれず、うう…、と弱々しい唸り声をあげるばかりだった。

夫婦の契りを、結びたいと言うのだ。
遙か未来に生まれた咲良を妻にし、傍に置いて子を成したいのだと、悠生は先の先まで想像し複雑な感情を抱く。
姉の恋愛を弟が咎める理由?
普通なら、口出しなど許されないはずだ。
だがこの状況では…、いけないことを上げればキリが無い。


 

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