生きる勇気
「はは…、顔だけはよく似ていると思ったが、全然違うんだな、あんた達は」
「……?」
「ありがとよ、心配してくれて。落涙なら気付かなかっただろうな。女には男の気持ちが分からねえ」
目をぱちぱちさせ、甘寧の言葉を理解出来ずにいた悠生だが、よろよろと体を起こすと、何とか座る甘寧と目線を近付けることが出来た。
輝きを失いかけている、
どこか切なさを感じさせる黒い瞳に、そう思わざるを得なかった。
「あんたが頑なに孫呉へ降ることを拒むのは、蜀には落涙よりも大事な、譲れねぇものがあるから。そう俺は思っていたが…実際のところ、どうなんだ?」
「そ、それは…」
「誰にも言わねえよ。男同士の約束だ。俺はただ…あんたが落涙を選ぶことが出来ない理由を知りてえだけだからな」
無理に口を割らせようとするのではなく、甘寧は幼い子供に接するかのように優しく語りかけてくる。
らしくない行為に違和感を持たずにはいられなかったが、悠生は甘寧が嘘を言っているとは思えず、つい、弱音を吐いてしまった。
「友達が…、僕の帰りを待っているんです。生まれて初めて、家族以外で僕のことを好きって言ってくれた…、大切な人が、大好きな人たちが蜀には居るから」
阿斗…、と。
音にはしなかったが、愛しい友の名を悠生は悲痛な想いで呟いた。
血の繋がらない者は、初めは必ず赤の他人であり、それが友となるか敵となるかは本人の世渡りの能力で左右される。
無器用な悠生の世界は、ずっと他人だらけだった。
両親や姉には確かに愛されていたが、それは同じ血が流れているからだとひねくれた考えしか抱けなかった悠生は、素直に幸せだとは思えずにいた。
寂しくないから、平気だからと強がっても、ひとりになると涙は止まらなくなった。
友達は、どうすれば作れる?
いくら考えても答えは出ず、そんなことも分からないならば、友達を持つ資格は無いと思い込んでしまった。
嫌われたくないなら、独りでいるしかないのだ。
だから阿斗は、初めての友は…、悠生にとって誰より大きな存在となっていた。
「その人の傍にいると…全てがきらきらして見えていたんです。空があんなにも青いなんて、知らなかった」
ぎゅっと手を繋いで、二人で、ずっと傍に居ると約束した。
命をかけることも出来る、心からの親友だと、普段から弱気な悠生であれども、それだけは自信を持って言えるのだ。
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