生きる勇気



夜明けを告げるために鳥が鳴く。
眠りを妨げるような不快な音ではないのに、夢の中でも熱に魘されていた悠生は中途半端な時間に目を覚ましてしまった。
はあ…と深く息を吐く。
吸い込んだ空気は冷たく、身体が震えた。
肌に感じる冷たさに反し、内側は酷く熱く燃えるようで、頭がくらくらする。

太公望に出会った夜、悠生は高熱を出した。
薬は与えられたが、意固地になり、それを服用することを拒んだため、熱が一向に下がらないのだ。
ぼやけた視界は、くすんで見えた。
生理的な涙が溢れたが、それを拭う気力も無かった。


「大丈夫か?」

「っ!?」


人が、居たとは思わなかった。
物音一つしなかったのだ、そんなはずがないと思い込んでいた悠生は盛大に驚き、反動で舌を噛んでしまう(ぽろぽろと涙が溢れた)。

寝台を覗き込む人物の顔を確認しようと、指で目元を擦る前に、柔らかな布が頬に触れる。
それがぽんぽんと押し付けられ…涙を拭っているのだと認識した時には、ほっと安心することが出来た。
知っている手の形ではないけれど、大きな、優しい手。
影が去ると、こんな明け方まで傍に付き添ってくれたらしい、意外な人物を視界に捉えた。


「…甘寧…どの?」

「おう。元気か?…って、床に伏せっているガキに聞いても仕方ねえな」


そう言って、彼はふっと笑ったのだ。
繊細に描かれている龍の入れ墨の目は血走っていて恐ろしいと言うのに、それに反し甘寧の笑みは静かなものだった。
彼のそんな表情は一度も目にしたことが無く、悠生は訝しんで甘寧を見る。


「何で、って顔してんな。俺が此処に居るのは姫しか知らねえ。暫く匿ってほしくてよ。別に、悪さをして追われている訳じゃねえぞ!?あんたの看病してやってんだ、感謝されても良いぐらいだよな!」


早口でまくし立てる甘寧に、きょとんと、目を丸くさせた悠生だったが、小さく口元を緩ませた。
甘寧はわざとおどけて見せて、江族上がりの、皆から畏怖される男だという印象を無くし、高熱に苦しむ子供を安心させようとしているのだ。
匿ってほしい…は真実かもしれないが、悠生はその理由が気になって、思ったことをそのまま口に出してしまった。


「何か、悲しいこと…ありましたか?」

「は?」

「甘寧どのこそ…元気がなさそうです。なんだか、辛そうな顔をしています。気のせいかも、しれないけど…」


無理をして笑っているような気がしたのだ。
痛々しいほどの笑顔を浮かべていた。
そんな顔は、甘寧には似合わないものだ。
余計なお世話だったと口にしてから後悔した悠生だが、視線をさまよわせていたら…、甘寧が今度は溜め息混じりにくすくすと笑い始めた。


 

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