小さな浮気心



『今すぐに返事をせよとは言わぬ。ただ…そなたは独りでは無いことを、覚えておくのだ』

『……、』


心からの想いであることは否定しない。
だが阿斗には、星彩が己の求婚を断れないことなど分かりきっていた。
これは、次期皇帝の命である。
張飛を失い、混迷する張家の娘を輿入れさせようというのだ。
家の断絶はまず有り得ないが、張飛を亡くした張家の信用を回復させる為に、星彩と阿斗の繋がりが一番影響力をもたらすのであろう。
つまり、都合が良い。
心が無くとも、星彩は首を縦に振らざるを得ないのだった。



「星彩。私はああ言ったが、そなたを最も愛しているのかと問われたら、答えは違ってくるのかもしれない」

「存じております。阿斗様は、一番に悠生殿を愛していらっしゃる」

「…ああ。そなたとて、今も変わらず関平を慕っておろう?お互い様なのだ」


他人に指摘されずとも、明らかであった。
ゆえに星彩も、関平への想いを否定しない。
互いに、深い苦しみを抱えていた。
煌びやかな光が当たる生まれ落ちた場所、世界が、いつしか闇に染まっていた。

以前、趙雲は同じことを言ったのだ。
悠生を愛し、我が物にしたいのだと。
欲にまみれた感情を、軽蔑こそしなかったが、阿斗はどこか違和感を持たずにはいられなかった。

趙雲の考えが分からない訳では無いのだ。
阿斗にも子供じみた独占欲は備わっている。
他人と関わるなとは言わないが、すぐ傍で悠生の笑顔を見ることが出来る、そんな特権を奪われたくはない。
誰よりも、星彩よりも傍に置きたい人。
年齢こそ年上ではあるのだが、悠生は阿斗の義弟であり、唯一の友である。
趙雲とは意味合いが違えども、悠生を想うこの気持ちは、"愛"でしかないと、気付くのが少々、遅かった。


「阿斗様。輝きなどとうに無くした星彩ではありますが…どうぞ私を、お傍に…」

「星彩…!」

「父上も、関平も、平和な世を望んでおりました。それを実現出来るのは、あなた様だけでしょう」


宝石のように澄んだ瞳に魅入り…、阿斗はついに目を伏せてしまった。
長年慕い続けた女性に想いが伝わった。
それなのに、この喜びを真っ先に伝えたい友は、何処にも居ない。
溢れた涙が、止まらなかった。


 

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