世界の創造者



「愚鈍でないならば、頷くのだ。この私に従い、詩を伝えると…」

「僕は…愚かでも良いです。遠呂智は皆が倒してくれるから。だから、咲良ちゃんを巻き込まないでください!!」

「戯れ言を…、」


自分や姉を優先し、世の平和を人任せにする悠生が気に入らなかったのだろう、太公望は不快感をあらわにしていた。
悠生は鼻先を刺激する圧迫感に耐え、ぎりっと唇を噛みしめた。
殺すつもりならやればいい、と泣きそうになりながら太公望を睨み付ける。
でも、僕は絶対に死なない…阿斗に会うため、生きなければならないから。
そんな、矛盾した気持ちを胸に抱いて、悠生は強くこぶしを握った。


「太公望どのには友達が居ないんですか?」

「…何を突然。気が違えたのか?」

「僕は一人じゃありません!友達も居るし、好きって言ってくれる人も居る。だから絶対、殺されたって死んだりしません!」


右手の指先が、燃えるように熱かった。
熱を持つ其処を見れば、人差し指が淡い緑色に発光し、きらめいていた。
悠生の声に呼応するかように、輝きは何かを象って、大きく広がっていく。

ぱあっ、と細かい粒子が弾けたとき…、悠生が手にしていたのは、プラスチックのようにすべすべした材質の、…緑色の弓だった。


「…確かに貴公は一人ではないようだ。多くの者に愛され、護られている」

「……、」


悠生に乱暴する気が無くなったのか、太公望は釣り竿を下ろし、ため息混じりに呟いた。
だが…悠生は弓を置いたりはしなかった。
何かに取り付かれたように、ゆっくりと弓を構えれば輝きと共に、今度はまた、同じ色をした矢が現れる。


「太公望どの…」

「……くっ」


音も無く放たれた矢は、太公望の目の前で、弾けて光の粒となった。
雪のようにふわふわと、宙を漂う無数の光を、悠生はどこか夢の出来事のように思いながら、ぼんやりと見詰めていた。


「…貴公は何も分かっていない…」

「っ……、あ……!!」


急に、足に力が入らなくなった。
更には呼吸が上手く出来なくなり、がくんと地にへたり込んだ悠生は、声変わりもしていないのに低い声で呻いた。
全身の血液が指先に集まったかのように、どくどくと脈打つ。
体の奥底がどろどろに煮えたぎっている。
噛み切れてしまいそうなほどに、唇や舌を噛みしめた。
何か見知らぬものが溢れてきそうで、怖かった。


「時が来るまで、大人しくしていることだ。逃げようとも、貴公は乱世に振り回されるであろう」

「う…っ、そんな…の…」


太公望の手が悠生の髪に触れる。
蝋燭の炎のような柔らかな光を浴びたら、少しずつ苦しみが溶けていった。

涙をにじませ、床に伏せる悠生は、目に見えて途切れていく意識の中で、弓が粒子となり弾ける音を聞いた。
痛くて、気持ち悪かったのに…何故か、大切な人達が、美雪や黄皓、関平が…居なくなってしまった彼らが傍に居るような気がして、悠生は微笑んだままで意識を閉ざすのだった。



END

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