世界の創造者
笛を奏でた咲良のその後のことは、答えてくれない。
ただでは済まない、ということだろうか。
もしかしたら太公望にも分からないのかもしれないけれど、それならばはっきり言えば良いのに。
遠呂智を封じるために必要なもの。
笛の奏者である咲良に、久遠劫の旋律の歌詞を教えろ、と太公望は繰り返す。
小春の言葉から、その旋律がよく知っていたものだと悟ったが…、咲良にどのような影響があるか分からないのでは、話す気にもなれない。
このまま、遠呂智がすんなりと降臨すれば、悠生は晴れて自由の身になれる。
ゲームでは、劉備が捕虜となり蜀はバラバラになってしまうが、英雄達の活躍により、必ず平和は取り戻されるのだ。
「やっぱり…駄目です…」
「何?」
「だって本当は…武将達が力を合わせて遠呂智に立ち向かっていくんです。僕や咲良ちゃんは、バグだから…僕達が居たから話がおかしくなっているんです。これ以上、余計なことは出来ません」
遠呂智の世界は、ゲームの中だけで勝手に融合させられた、史実には有り得ないオリジナルの歴史である。
偽りのものと知っていても、悠生は彼らの歩む歴史を知り、愛したのだ。
選べた道はひとつではない。
だが、バグである悠生や咲良が、無闇に話の筋書きを書き換えるなど…それでは、遠呂智が倒される未来が、訪れなくなるかもしれない。
それなら、今は大人しくしているべきだ。
何もせず、時の流れを見つめることこそが、正しい選択ではなかろうか。
「呆れてものが言えないな。この私の言葉に耳を貸さないとは、実に愚かだ」
「……、」
「遠呂智が降臨すれば、世がどのように乱されるか、私にも確実な事は分からない。ただ一つ、このまま頑なに拒絶を続けると言うのならば、貴公は私の敵と見なそう」
静かに、釣り竿の先端を突きつけられ、悠生は瞬きも出来ずに硬直した。
逆らい続けたら、殺されてしまうかもしれない。
阿斗のためにも、何としても生きなければならないのに。
そのためには姉をも利用せねばと思っていたが、咲良が傷付くぐらいならば、何も変わらない今を繰り返す方がマシだった。
[ 182/417 ][←] [→]
[戻]
[栞を挟む]