世界の創造者



「妲己が脱走を手引きし、遠呂智は五行山より姿を消した。近く地上に降臨するだろう。貴公が落涙に手を貸さずとも、妲己は既に手筈を調え、時を待っている」

「もう、そんなところまで…」

「…旋律が世に災厄を齎すと思っていよう?それは間違いだ。落涙の音は、遠呂智を封じることが出来る」


旋律がどのように影響するか、咲良が笛を吹けば遠呂智が降臨すると思っていた悠生は確かに大きな勘違いしていたようだが…それよりも、太公望に己の思惑が知られていたことに、悠生は驚愕した。
何もしなくても、遠呂智に世は乱される。
では、咲良に笛を吹いてとお願いする必要も無くなってしまうではないか。


「…ゆえに、落涙は私の仲間が保護をする予定だ」

「えっ」


遠呂智を眠らせることが出来る咲良は、妲己にとって一番の厄介者であろう。
いつ命を狙われてもおかしくない。
だが、仙人に保護される…、姉の身を案じてのことなのだろうが、それでは、咲良の自由を奪うことになるのではないか。


「でも、咲良ちゃんは…、孫呉で頑張って暮らしているんです。仙人と一緒なら安全かもしれないけど…、悲しい想いをさせないでください。咲良ちゃんが良いって言うなら、良いですけど…」

「無碍には扱わぬ。大切な奏者であるゆえにな。さて…、貴公に尋ねておきたいことがあるのだが」


そう言い、太公望は一歩前に踏み出した。
悠生は変わらずに視線を送り続けるが、彼の探るような鋭い瞳に見つめられ、表情を強ばらせる。


「まず、詩の意を理解せねば、笛を奏でても意味を成さない。現在、詩を知る者は小春という娘だけであったのだが、生憎記憶を封じ込めている。しかし貴公ならば…、知っていよう?」

「太公望どのは、何が目的なんですか?咲良ちゃんに笛を吹かせて、その後咲良ちゃんはどうなるんですか?」

「…落涙の音は遠呂智を眠らせる揺籃歌であると言ったはずだが?遠呂智を永久の眠りに誘う旋律、それを奏でられる落涙を、妲己が見過ごすはずが無い」


 

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