世界の創造者



陸遜に置いていかれてしまった悠生は暫くその場に立ち尽くしていたが、伝言を届けに来た文官に連れられ、やっと与えられた個室に戻った。
その際に筆や硯を所望し、早速咲良への手紙を書くことにした。

角張った炭を削りながら、悠生はじっくりと思案する。
伝えたいことを全て詰め込まねばならないが、上手く纏められるだろうか。
書き出しは、咲良ちゃんへ…。
ここは意図的にでも、平仮名を多用すべきだろう。
皆には日本語が読めないと分かっていても、手紙を調べられたら、漢字から内容がバレてしまうかもしれない。


(咲良ちゃん…変だよね。伝えたいことは沢山あるのに、会って話す気にはなれないんだ)


返事が貰えるかどうかも分からない。
きっと、悠生が今から書こうとしている内容では、期待出来ないだろう。
正直な気持ちと、ほんの少しの嘘。

これからも蜀に暮らしたいのだと告げたら、咲良はきっと失望するはずだ。
優しい姉のことなら、ゲームから抜け出せなくとも、再び弟と共に暮らすことを願っているだろうから。
悠生は姉の性格を熟知している。
咲良は誰よりも、弟の幸せを望んでいる。
此方が必死に、誠意を持ってお願いをすれば、姉は弟の望みを叶えずにはいられない。
それがどれほど罪深き行いであっても、相応の理由を添えてやれば特に問題は無い。


(蜀へ戻る手助けをしてほしいんだ。咲良ちゃんより大切な人が出来たから…なんて、正直に書いたら傷付けちゃうかな)


此方の世界に来て、もうどれほど過ぎるのだろうか。
昨日のことのように思い出せるのに、会いたくてたまらない。
阿斗のことを思うと、酷く懐かしくなる。
そして、趙雲のことを考えると…、胸がぎゅっと痛くなるのだ。
泣いてしまいたくなる。
この気持ちは、切ない…としか言えない。


(趙雲…どの…)


会いたい。
大好きな姉よりも、大好きな人達。
故郷や家族を捨て、蜀を選ぶなど…、親不孝者にも程があるが、それを告げても、姉ならば受け入れてくれると思う。
咲良は日頃から心配性で、友達のひとりも居ない悠生が社会に出て上手くやっていけるか、いつも案じていた。
それを抜きにしても、悠生には咲良が応えてくれるという、確かな自信がある。

愛されていた、と思うから。
悠生は可愛い、とか、大好き、と言われ続けていたが、姉の感情は母性に似ている。
友のためには仕方がないということを綴り、まずは姉の心を攻めなければならないのだ。


(ただ、あの旋律を…笛を吹いたら、遠呂智が降臨するんだってことを、ちゃんと伝えるべきなのかな…)


自分のせいで世界が混沌に陥ったと知れば、咲良は苦悩し、自身を責めるはずだ。
子供のように泣き崩れる姿が容易に想像出来るため、少々躊躇われる。
だが、それを気にしていたら、混乱に乗じて城を抜け出す計画など、実行出来るはずがないではないか。
姉を利用すると決めたのだから、余計な感情は捨ててしまわなければ、いつまでも筆を滑らせることも出来ない。


 

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