夕べがざわめく



(じゃあ、小春さまが陸遜さまに嫁ぐんだ…もしかしたらもう夫婦なのかも)


小春は聡い娘だろうから、きっと自分の置かれている立場を理解し、全てを受け入れている。
そんな彼女が寂しがっているなら、仕事を休憩してでも会いに行ってあげれば良いのに。
心優しい小春を、邪険に扱う理由など一つも無いだろうに。


「黄悠殿、私にお付き合い願えますか?時間は取らせません」

「はい…分かりました」


部屋で済ませられない用事なのだろうか。
文句も言わずに立ち上がった悠生だが、駄々をこねれば後々面倒なことになると予想し、素直に従うことに決めた。

見張り達が揃って頭を下げるのを視界の隅に捉えながら、陸遜に促され、悠生は彼の後ろに続いて歩いた。
ゲームの設定では、陸遜はまだ十七歳程であるが、咲良とほとんど同い年なのだ。
幾分か誤差があれども、自分とそれほど年が離れていないはずの青年の背が、遠いものに感じられた。


「黄悠殿。孫呉への永住を考えてくださいましたか?」

「…いいえ」

「そうですか…、残念です」


これは…承諾の返事を望まれているのだろうが、悠生には首を横に振ることしか出来ない。
いつまでも、役に立たないただの捕虜を、生かしておく必要も無い。

だが、悠生の置かれている状況が複雑なのだ。
きっと、悠生が落涙という楽師の弟であることは周知の事実であり、だからこそ陸遜は悠生に投降を勧めているのだろう。


「今日お伺いしたのは、貴方の隻眼の馬についてご相談があったからなのですが…」

「あ…」

「……、」


…あまり、マサムネのことは考えていたくなかったのだ。
黄皓が死んでしまい、マサムネの行方は知れなかった、知る術も無かった。
もしかしたら、死んでしまったかもしれない。
でも、生きていてくれれば嬉しい。
二度と再会が叶わなくとも、自由に大地を駆けてくれさえすれば。


 

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