神様の音楽



「今日は、黄悠さまに音曲を聴いていただきたいと思っておりました。落涙さまに教えていただいたものです」

「お姉ちゃんに……。小春さま、聴かせてください。ちゃんと、聴いていますから」


悠生の言葉に勇気づけられたのか、小春はじわりと滲んでいた涙を拭い、持参した箱を取り出す。
何が入っているのかと思って見たら、そこには古ぼけた色の横笛が収められていた。
そう、彼女は音楽を聴かせてくれるのだ。
落涙から教わったという、咲良の想いを受け継いだ懐かしいメロディを。


(……これ、は)


空気が震えるのが分かるような、狭い空間に生み出された旋律は、儚くも美しい…そして、悠生のよく知った音楽だった。
目を閉じれば、故郷の四季の情景が次々に思い浮かぶ。
咲良に教わったからこそ、奏でられる。


(この曲は、閉幕…だっけ?何だか…悲しいな。咲良ちゃんは、何を想ってこの曲を吹いたんだろう)


二度と耳にすることは無いと思っていた、大好きだったゲームの音楽だ。
研ぎ澄まされた音色が切なく感じられた。
異国の血が流れる小春が演奏していても、悠生の心は大きく震えていた。

咲良ちゃんも、現代に、元の時代に帰りたいと願い、この旋律を思い出していたの?
弟の裏切りも知らないで、健気に待ち続けているの?


(出来ることなら、咲良ちゃんを連れて、蜀に帰りたい…でも、そんなの我が儘なんだ。どうしたら良いのか、分からないよ…)


何が、本当の幸せ?
友達が居なくとも、両親や姉と暮らす日々は、確かに幸せだった。
でも…見るものに色がついていなかったのも、事実だ。
阿斗と出会い、真っ暗な世界が輝き出した。
初めて…生きている実感を得たのは、阿斗の隣だったのだ。

ずっと一緒だと、誓ったではないか。
生まれて初めての親友となった阿斗までも、裏切るつもりなのか?


 

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