神様の音楽



「も、申し訳ありません!お気に障ったならば、謝ります。わたしはただ…初めて、年の近い方とお話が出来て、嬉しくて…」

「あ……」

「落涙さまのご兄弟であられる事実は、ひとつのきっかけだと思うのです。わたしは確かに、落涙さまを誰よりお慕いしておりますが、友になりたいと望んだことはありませんでした」


同じ両親から生まれた、全く別の個体。
顔は似ているけれど、性格は真逆な二人。
姉が優秀だからと、悠生がうじうじと劣等感を抱いていることも、小春にはどうでも良いことだったのだ。
師匠の弟、それが興味を抱いたきっかけであれども、黄悠と友人になりたいと願う気持ちに落涙は関係無い。
勝手に、阿斗との思い出を汚された気になってしまった。
小春は本当に、何も悪くないのに。

胸の前で両手を組み、小春は大きな瞳を潤ませながら悠生に訴えかけている。
どれほどの勇気を振り絞ったのだろうか。
決して口にしてはいけないと縛り付けていた想いを、初めて他人に打ち明けたというのに、悠生は自分のことで精一杯で、小春の純な心を傷付けてしまったのだ。
いつしか、悠生の中にある種の使命感が生まれる。
彼女を泣かせるようなことは…、絶対にしてはいけないと。


「でも…ごめんなさい。小春さまの友達には、なれません。僕は蜀の人間だから」

「そう、ですか…」

「…本当は、嬉しかったんです。もっと、平和な時代に出会えていれば、良かったのに」


俯いて唇を噛みしめたら、小春も泣き出す寸前のようなか細い息を漏らした。
ああ、この人も…苦しんでいるんだ。
阿斗の傍で、彼の傷付いた心に触れていた悠生には、小春の気持ちが手に取るように分かった。

生まれたときから姫様として大事に育てられた小春には、心を許せる友が出来なかったのだろう。
弱さを見せることも、甘えたい時に甘えることも、自由に生きることさえ望めない。
小春が漸く見つけた友人候補が、たまたま落涙の弟であった、それは本当に、偶然でしかないのだ。


 

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