たゆまぬ流れ



「もしかして…こうなったのは、初めてなの?」

「知りません、だって僕は……」


顔が不自然に青ざめていたのか、尚香は心配そうに悠生の頬に手を添えた。
何故、こうなってしまったのだろう。
なんて…恐ろしい。
こんな、他人を傷付けるかもしれない危険な力、欲しくない。


「何だ何だ?強い奴が暴れているのかと思ったんだが…」

「待てよっ!あんたはまた勝手に…」


二人の空間に新たな声が割り込んだ。
どちらも聞き覚えのある声であったため、悠生は顔を上げずとも彼らの姿を想像出来た。

甘寧と、凌統だ。
彼等は相当な不仲であると記憶していたが、何故肩を並べて登場するのだろうか。


「ちょっと!この時間は私が修練場を貸し切っているのよ!」

「すみません、凄い轟音がするからって、こいつが見張りを押しのけて…にしても、この有り様は…」


刺すような視線を感じ、ちら、と其方を見れば、鈴の甘寧が物凄い眼力で悠生を見下ろしていた。
びくっとあからさまに肩を跳ねさせたら、甘寧は面白いものでも見るように、にやっと口端を釣り上げる。


「あんた、本当に落涙にそっくりだな!」

「ら、くるい…?」

「甘寧!!あなたふざけているの!?」


使い慣れない単語を反芻するが、それが涙を流すことを意味しているのだと解釈した悠生は、首を傾げた。
落涙に似ている、とは?
それに、尚香の怒り方は尋常ではないのだ。
彼女がどうして其処まで甘寧を責めているのか、悠生には全く分からなかった。


「な、何だよ。落涙に黙っときゃいいんじゃねぇのかよ」

「あんたさ、少しは頭を使いなよ。軍師殿は、双方に知られることを危惧していたんだろ?」

「あぁ面倒くせぇ!自慢じゃねえが、俺は頭を使うのが苦手なんだよ!」


甘寧は唾を飛ばして凌統に突っかかっているが、悠生の耳には入らない。
落涙と呼ばれる、誰かさんのことを考えていた。
皆はその存在を悠生に隠しておきたかったようなのだ。
都合が悪いから?どうして?


(僕は此処に知り合いが居ないのに…、だけど…可能性があるとしたら…?)


たとえばの話だ。
自分が今まで歩んできた道が、偶然ではなかったら?
バグの辿るルートが、ある程度、定められていたならば。
もしも、その奇跡に、咲良も同じく巡り合っていたのだとしたら、全てが繋がるのではないか?


 

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