君の声だけで



「ごめんね」

「何故、そなたが謝る?」

「がっかりさせたから。でもさ…、阿斗は好きな人も、そのほかの人も、ちゃんと愛してあげるんでしょう?民も、家臣も、皆のことを好きでいてあげてね。僕、信じているから。…途中で投げ出したりしないで、きっと、良い国を作ってね」


後の阿斗が暗君だと呼ばれないように。
このまま、成長した阿斗がどんな劉禅になるかは分からないが、先人が作り上げた国を、彼を慕う民を、大事にしてほしい。
そして星彩を、一筋に愛してくれたら印象が良いのだけれど…、なんて、無理な注文だろうか。

だが、これだけ言えれば、満足だ。
胸の内を吐き出してすっきりした悠生は、久しぶりに、心からの笑みを浮かべることが出来た。
その笑顔に、阿斗が動揺していることなど知らずに(趙雲が感心していることにも、気付かない)。


「そなたに言われずとも…私は良き国を作るぞ」

「本当ですか、阿斗様。御父上も喜びになられますね」

「子龍には言っておらん!」


そうだ、趙雲が。
無双の趙雲がすぐ傍にいる…これこそ、悠生にとっては夢のようだった。
いや、この世界は、夢。
夢であればどれほど幸せだっただろうか。


「初めまして…ではないですが、今日の貴方は顔色が良い。安心しました」

「……、僕は…」


夢ならば、いつか必ず終わりが来る。
朝、目覚めたら、咲良の元へ帰れる。
何度、切望したことだろうか。

目の前で柔和に微笑む彼は、悠生の世界では二次元の作られたキャラクターだ。
趙雲が生きる世界、そんな、有り得ない世界に、自分はバグとして存在している。
定められた歴史を刻んでいく彼らの邪魔をすることしか出来ない、厄介者として。


「傍にいると、訳が分からなくなるから」

「……?」

「やっぱり何でもない!でも、最後に会えて良かった。阿斗も、来てくれて嬉しかったよ」


もう彼らには会わない、会ってはならないのだと、悠生は自分に言い聞かせた。
バグはいつか修正され、消えることだろう。
ひっそりと、誰も気付かないところで消滅するのだ。
寂しい気もするけど…受け入れなければ。


「じゃあね、阿斗」

「待て!私はそなたを……いや、次の機会に話そう。また、会いに来る」


その言葉には驚いた。
阿斗は、悠生が考えている以上に好意的なのかもしれない。
友達にだって、なってくれる?

だが、悠生には友を作る勇気が無かった。
ずっと一緒に居てくれないなら、要らない。
だから、背にぶつけられた阿斗の言葉に、想いに、答えることが出来なかった。




 

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