たゆまぬ流れ



「あれ…、」

「どう?」

「……、」


夕食も、朝食も…不味くはなかった。
だけど食べる気がしなくって、勿体無いとは思ったけど結局、残してしまった。
しかし、喉に流し込んだスープの味は、その二食とはまるで違うものだったのだ。
今では随分と懐かしさを感じる、二つ目の故郷の味。

いつの間にか止まらなくなって、悠生は噎せてしまいそうなほどに、ぱくぱくと口を動かす。
徐々に胃が満たされていくと、冷静に考える能力を漸く取り戻すことが出来た。
料理を舌で味わいながら、悠生の脳裏に浮かぶのは、やはり、阿斗の様々な表情である。
そして、蜀と深い関わりのある尚香…つまり、辿り着いた答えはひとつだ。


「これ…もしかして尚香さまが…?」

「え!?どうして分かったの?」

「蜀で食べていたご飯に似てるから…」


阿斗を思い起こさせる蜀の味。
蜀に暮らし、同じ料理を口にしていた尚香の手料理であればこそ、生み出せる味だと考えた。
悠生の質問に尚香は驚いたようだったが、すぐに優しげな笑みを浮かべる。


「私ね、蜀に暮らし始めた頃、お茶の味の違いに苦しんだの」

「お茶?」

「ええ。蜀と呉とではお茶の味がまるで違ったのよ。国が違うだけなのに、ここまで変わってしまうものなのって。だから、用意してもらったお茶を飲むのが嫌で嫌でたまらなかったわ」


だからね…、と尚香は続ける。
政略結婚で劉備に嫁いだ尚香は、蜀の民に受け入れられ、心から歓迎されていたのだろう。
孫夫人に不自由をさせないように蜀の人々は尽力していたはずだが、食べ物の味に違和感を抱いている…、彼女がいちいち文句をつける訳がないし、皆にとって盲点だったのだ。

捕虜としてやって来た悠生も同じ悩みを抱き、食べ慣れない孫呉の食事を気に入ることが出来なかったのでは。
そう気付いた彼女は、悠生のためにわざわざ蜀風の味付けをしてくれたのだった。


 

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