悲しみが居座る




淡いピンク色の花びらを眺めながら、美しい桃の花を咲かせる庭園の中を、大好きな友達と歩いていたい。
ずっと一緒にいようね、と他愛もない言葉を交わし、青い空を仰ぐのだ。


(阿斗…ごめん……)


君のためならこの命だって捧げられる。
故郷を捨て、咲良を忘れ…、全てを委ねても構わないと思える人だったのだ。
この先、阿斗以上に好きだと思える友達に出会うことは、決して無いだろう。

だから、もう、いいんだ。
大切なものを次から次へと奪う世界に、希望なんか抱かない。
だけど、せめて。
さよならぐらいは言わせてほしかった。




「うう…、ん…」


…長い夢を、見ていたような気がした。
もしかしたら、阿斗や趙雲と過ごした日々の全てが夢だったのではないかと、たった一瞬でも、思ってしまった。

目を覚ました時、悠生は最初に瞳にうつった天井が、現代のものではないことに少なからず、安堵していた。
だが、頭が鈍く痛み、すぐに己の置かれた状況を把握することは出来なかった。

窓の隙間から射し込む細長い光が眩しくて、目を細めた。
…生きていたのだ。
ただただ、意外なことのように思えた。
あの冷たい雨に打たれ、震えながら、凍死するのを待つだけだったはずなのに。

薄暗くて静かな、こじんまりとした狭い部屋に、悠生は寝かされていた。
黄皓は?マサムネはどうなったのだろう。
瀕死状態で…いや、冷たい雨の中で事切れてしまった友人の身を案じるも、思うように体が動かせない。

どうにか視線だけを動かし、悠生は寝台の傍で椅子に座り眠る若い女性を見たのだが、驚くよりも前に、何とも言えない…複雑な思いを抱いてしまった。


(孫尚香…か…、ああ、僕は…孫呉に助けられたのか…)


まだ、あどけなさを残す美しい娘。
劉備の夫人であり、阿斗の義母となった…孫尚香は蜀に深く関わりを持つ姫君だ。
ゲーム中では、呉軍の一員として、樊城の戦いにも参加していたこともあったはずだった。

つまり、自分は孫呉に救われたのだ。
感謝すべきか否か…、本来なら、あの場に捨て置かれていたのだから、まずは礼を言うのが筋だろう。
しかし、尚香に情けを掛けられた…それはすなわち、自分の身柄は孫呉に拘束されたということである。
知らぬ間に、国境を越えていた。
悠生が思った以上に、大切な人々との距離が開いてしまったようだ。


 

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