君の声だけで



「なんて言うか…異国が舞台だから、阿斗…さまの常識で考えないでほしいんだけど」

「…まあ、無礼な物言いは大目にみてやる。が、何が可笑しいと申すのだ?」


古風な考え方であれば、身分の高い者が多くの妻を持つことは当然で、側室であろうとも正室より先に嫡子を生めば、結果的に、夫からの寵愛も一心に受けられることになるだろう。
この物語に関しては、阿斗の考え通り、王子様が蝶姫と自国の妻を両方娶れば万事解決ではある。


「どうした?さあ、早く結末を話すが良い」

「……、」


子供達は、何となく最後が予想出来たのか、今にも泣きそうに顔を歪めている。
悠生を見つめて、早く物語の終わりを知りたいと切に訴えている。

阿斗は、頭は良いのだと思うが…脳天気だ。
話を最初から聞いていたなら、また別の反応を示したのかもしれないが。
恐らく、姫を置き去りにしようとする王子を馬鹿にし、自分の考えこそが正しいと決めつけているから、これほど上からものが言えるのだろう。


「息子の幸せのためならと、蝶姫様は大事な子を手放すことに決めました。そして蝶姫様は、胸に刃を突き立て、自害してしまいました」

「……、」


悲しい恋の結末は、お姫様の死。
この壮絶なラストシーンから、子供達は何かを感じ取っただろうか。
時代に翻弄された蝶姫様が可哀想だと、素直に終わらせても良いのだが、本当は彼女の潔い死に意味があるということを知ってほしい。

しかし、これ以上は語れない。
いつものように、悠生の話を聞き終え、各々想いを馳せながら幸せそうに微笑む…そんな光景は無かった。
やはり、語って聞かせる物語はハッピーエンドでなけば駄目なのだ。

次は楽しい話を聞かせると約束した悠生は、笑顔を取り戻した子供達を家に帰した。


「ふん。一度は愛した女子を死に追い込むなど…信じられん。私は許さぬぞ。そのような男に国を治める資格は無い」

「……、本当は、王子様とお姫様の話じゃないんだよね。王子様は国のために働く文官だし、蝶姫様は武家の娘だけど、ずっと芸妓として生きてきたんだ」

「何だと…!?」


熱弁している阿斗には申し訳ないが、悠生は微妙なタイミングで真実を明かした。

芸妓…、芸者の蝶々という娘が、外交官の妻となり、最終的には自害するというオペラの話である。
武士の血を受け継ぐ気高き女性の生き様、そしてその最期。
子供達や阿斗には、伝わっただろうか。
蝶々は、最後の瞬間まで誇り高く生き、潔く散り行くその美しさを、身をもって子に教えたのだ。


「蝶姫様は、残された子のために自害したんだ。武士道…って言うか…分かるかな?名誉と、誇りを守ろうとしたんだよ。誇りを失ってまで生きることは許されないんだって」

「……、」

「阿斗様」


後ろに控えていた趙雲が声をかけるが、阿斗は口を閉ざし、黙したままだ。
遊女如きの恋愛話を聞かされて、不快に思ったのかもしれない。
それとも、当たり前のように嘘の話をした、悠生に対して苛立ったのだろうか。

嫌われたって、別に構わないけれど。
悠生は真っ直ぐ、阿斗の目を見つめた。
いつか、劉禅となって国を背負うこととなる阿斗に、伝えたいことがあったのだ。
最後だから、今こそ勇気を出して言おう。




 

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